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素人園芸解説 -私はこう育て る-

園芸知識:根回し

概要

  1. 樹木は、主に、根の先端にある「細根」という部分から、生命維持に必要な養水分を吸収している。大きな木ほど根が長く伸びているため、幹から遠く離れた場所に細根がある。そのため、地植えの大きな木を掘り上げて移植すると、どうしても細根を切ってしまう。細根を失った木は次第に衰え、枯死することがある。
  2. 「根回し」とは、移植を予定している木の、根の途中を人為的に傷付け、その傷口付近から新しい細根を出させる作業である。移植によって根の先端部を失っても、途中から新たな細根が出ていれば、枯れる危険が大幅に減る。
  3. 一般に、若い木ほど移植後の活着がよく、老いた木ほど失敗しやすい。(老木が活着しやすいクスノキのような例外もある。)

根回しが必要な木

  1. 全ての木に根回しが必要なわけではない。行うべきなのは、高さ2m以上ある大きな木や、根が粗く細根が少ない木、植え付け後5年以上経った古い木などである。どちらかというと、常緑樹に必要な作業である。落葉樹は比較的、移植が容易だが、それでも、古い木には根回しをしたほうが安全。
  2. 常緑樹の中でも、ツバキ類やモクレン科の植物は、根が粗い木の代表格である。移植前には必ず根回しを行い、新根を出させておかなければ、高確率で枯れてしまう。
  3. 移植で枯れやすい樹種は、ある程度決まっている。その理由としては、「根の再生力が弱い」「傷口から入る病原菌に弱い」ということの他に、「葉だけでなく樹皮からも盛んに蒸散しているため、体内の水を失いやすい」というものもある。
  4. 例えばフジのように、根を切られると枯死する木では、根回しが行えない。それでも移植したい場合は、造園業者に依頼してやってもらうことになるが、プロが作業しても、枯れるときは枯れる。
    (※ このページの趣旨から外れるが、木が小さくなっても良いのなら、挿し木や接ぎ木など、他の方法で親木のクローンを作った方が、はるかに安全である。)

根回しの手順

  1. 根回しの作業は、移植の予定日から逆算して、数ヵ月~3年くらい前に行う。(古い老木ほど、期間を長くとる。)若木なら1ヶ月前でも大丈夫だが、できれば、1年ほど期間をとったほうが無難。
  2. 作業に適した季節は、2~7月・9~10月である。最適期は2~3月なので、なるべく新芽が出る前に済ませたい。なお、真夏は根を乾燥させて傷める危険があり、晩秋~真冬は新根の発生が遅い。
  3. 冬の間は木が休眠するため、あまり根が伸びない。従って、秋に根回しをすると、新根の発生が遅いので、翌春の移植を避け、秋以降に行う。なお、耐寒性の弱い木は、秋に根回しをしてはいけない。
  4. 実際の手順は、以下の通り。
    1. 木の周りに、主幹を中心とした同心円を二つ描く。円の直径は、内側の円が主幹の太さの4~5倍、外側の円が7~8倍である。(例えば、主幹が直径10cmなら、内側の円が径40~50cm、外側の円が径70~80cm。)
    2. 二つの円の間のドーナツ型の部分を掘り下げ、太い根を露出させる。このとき、根を切らないよう注意。掘る深さは、主幹の太さの3~4倍が目安。(例えば、主幹が直径10cmなら、掘る深さは30~40cm。)
    3. 太い根を、四方にバランスよく数本(最低でも3~4本)残し、他は全て切断する。主幹の真下にもスコップを水平に入れ、下方に伸びた根を切断するのを忘れない。なお、残す太根の配置が一方向に偏ると、木が不安定になり、倒れる危険があるので注意。
    4. ナイフなどを使って、残した太根の皮をぐるりと環状にはぎ、木質部を露出させるように整える。根皮をはぎとる幅は1~5cmくらいで足りるが、10年以上経っている大きな木は15~20cmほどはぐ。(この作業を「環状剥皮」という。)
    5. 根の処理が終わったら土を埋め戻し、しっかり水やりをする。同時に、地上部を少し剪定して葉を減らし、木の負担を軽減するとよい。
    6. 数ヵ月(最低でも1ヵ月、できれば半年以上)経ったら移植が可能。根の皮をはいだ場所付近(主幹に近い側)に、若い細根がたくさん発生しているので、この細根を傷めないよう細心の注意を払いながら、再び株の周囲を掘り下げる。
    7. 元からある太い根は、皮をはいだ部分で切断し、木を掘り上げる。このとき、根回しの時に切り残した根が見つかっても、全て切断する。
    8. 掘り上げた木は即座に植え付ける。それが無理なら、麻布かコモ(荒いムシロ)で根鉢を包み、ワラで作った荒縄で巻く「根巻き」をして、根の乾燥を防ぐ。
  5. 土を掘って根回しを行う際、太い根の切断部分、または環状剥皮をした部分(根元に近い側)に、挿し木用の発根促進剤を塗っておくと、新根の発生が促される。また、良質な完熟堆肥やピートモスを、切断部分や環状剥皮部分の周りにたっぷり施しておくと、堆肥が分解される際に生成される植物ホルモン様の物質が発根を促進するらしい。
  6. 移植予定の木が、比較的小さい若木であれば、上記のような本格的な根回しをせず、木の周囲に、主幹の4~5倍の円を描き、その円周上にスコップを深く差し込んで、根を切っておくだけでよい。根の切り口付近から、新しい細根が発生するので、数ヵ月経ったら、木の周囲を、最初の円より少し大きめに掘り、木を掘り上げる。
  7. 作業後は、根が傷ついているため、体内水分蒸散のバランスを取るべく、枝葉の剪定をする。しかし、葉が減ると、光合成による養分生成能力まで落ちるため、傷口の癒合や、新根の発生に回す養分の余裕がなくなってしまう。剪定は最小限にとどめるか、いっそ行わずにおき、木が自ら枯らすまで放っておいてもよい。ただし、作業後に枯れた枝葉(=木が自ら枯らした枝葉)があれば、早めに切除する。
  8. 根回しの終わった木を掘り上げる作業は、なるべく、その樹種の植え替え適期に行う。急な引っ越しなどでやむを得ない場合は、この限りでない。
  9. 根巻きの方法には、大きめの木に用いる「ぐる巻き」「ミカン巻き」、株立ちの木に用いる「首巻き」、小さな苗木用の「小物巻き」、掘り上げながら同時に根巻きする「樽巻き」などがある。いずれも、よく発根し、根鉢がしっかり固まっていなければ巻きにくい。縄のかけ方は決まったやり方があるが、ここでは割愛する。