いろんな植物の育て方や知識をご紹介。

素人園芸解説 -私はこう育て る-

園芸知識:鉢・プランター

概要

  1. 野生の植物は、地面に根を下ろし、何の制限も受けず、自由に根を伸ばしている。しかし、人間が植物を身近で育てる場合、気候や場所の確保などが問題となり、地面に植えられないことが多々ある。地面が無理なら「コンテナ」に土を入れ、その中で栽培するしかない。
  2. 園芸上、「コンテナ」という言葉は、土を入れて植物を植え込む容器全般の総称として用いる。コンテナには「鉢(「ポット」ともいう)」と「プランター」があるが、両者の間には、明確な区別は無いようである。強いて言えば、「鉢(ポット)」は比較的小型で、一種類の植物を植える用途に向き、「プランター」は鉢より大型で、数種類の植物を寄せ植えする用途に向く。しかし、寄せ植え向きの大きな鉢や、ごく小さなプランターもあり、一概には言えない。
  3. ただし、どんなに小型であっても、横長の直方体、あるいは楕円形の形をしたコンテナは、必ず「プランター」と呼ばれるようである。
  4. 鉢とプランターの役割は全く同じで、特に区別する必要はない。従って、このページでは、全て「鉢」という言葉で統一することとする。(「コンテナ」で統一すると「鉢壁(はちかべ…鉢の側面)」などの言葉が使いにくいため。)また、鉢は英語で「ポット」といい、日本語でもそう呼ぶことがあるが、ここでは「鉢」を用いるで。
  5. 鉢植えの植物は、地植えの植物に比べ、根の量が限られるため、生長が常に抑制され、早く成熟する。そのため、地植えの植物よりも、開花・結実が早くなる傾向がある。
  6. 株の成熟が早いということは、当然、老化も早いことを意味する。それを避けるには、定期的な植え替えが必要となる。それについては、「植え替え・植え付け」ページを参照。
  7. 植物の根は、鉢壁にぶつかると分枝しやすい。従って、最初は、根全体がちょうど収まる程度の小さな鉢に植えて根をどんどん分枝させ、鉢底から根が出るたびに一回り大きなコンテナに植え替える、ということを繰り返せば、非常の根張りの良い株となる。根張りの良い株は、とても健康的で育てやすい。

鉢の大きさ・深さ

  1. 鉢のサイズは、「3.5号」「5号」「12号」といった数字で示される。この号数は鉢の口径を表し、1号を3cm(正確には一寸=約3.3cm)として計算する。例えば、3.5号鉢なら10.5cm、5号鉢なら15cm、12号なら36cmである。なお、これは鉢の口径だけを表す単位であって、鉢の深さは関係ない。
  2. 鉢の口径と深さがほぼ同じ鉢は、「普通鉢」または「標準鉢」と呼ばれる。なお、やや深めの鉢を「中深鉢」、やや浅めの鉢を「輪鉢」と呼ぶこともある。
  3. 鉢の深さが、口径の半分程度しかない鉢は、「半鉢」「浅鉢」「平鉢」などと呼ぶ。浅鉢は、ツツジ類など、根が浅く張る植物に適する。また、タネまき床や挿し木床としても使いやすい。
  4. 鉢の深さが口径より大きい「深鉢」は、過湿による障害が出やすいので注意する。深鉢が適するのは、シンビジウムのように、根が真下に長く伸びる植物である。なお、深鉢は「懸崖鉢」「腰高鉢」「長鉢」とも呼ばれる。

鉢の材質

  1. 鉢の材質はいろいろあるが、「焼き物鉢」と「プラスチック鉢(プラ鉢)」がよく使われる。焼き物鉢は、粘土で鉢の形を作って焼いたもので、「駄温鉢(駄鉢)」「素焼鉢」「テラコッタ」の三種類が一般的。焼き物なので割れやすく、汚れがこびり付きやすいのが欠点だが、鉢の壁面が空気や水を通す(=通気性・排水性がある)ため、根腐れしにくく、鉢土の温度が上がりにくい、などの利点がある。プラスチック鉢については後述。
  2. 駄温鉢は、別名「駄鉢」ともいう。焼成温度が約1,000℃と高温で焼かれているため、比較的丈夫で割れにくく、適度な通気性・排水性を持つ。縁の部分(「桟」という)だけに釉薬がかかっているのが特徴。どんな植物でも問題なく育ち、最も使いやすい鉢だが、デザインが無骨で、見た目に美しいとはいえず、やや重いのが欠点。
  3. なお、駄温鉢にそっくりで、桟に釉薬がかかっていない鉢もあり、「朱温鉢」と呼ばれる。見た目以外は駄温鉢とほぼ同じ。
  4. 素焼鉢は、駄温鉢に似た形をしているが、釉薬が全くかかっていない。焼成温度は約700~900℃と低温で、通気性・排水性に優れる。しかし、駄温鉢と同様のデザインが無骨な上に、もろくて割れやすく、おまけに大変乾きやすいので、常に水切れの危険が付きまとう。しかし、洋蘭など、通気性と乾燥を好む着生植物には最適の鉢である。なお、素焼鉢は、ただでさえ割れやすい上に、使っているうちに表面が風化し徐々に崩れてくるので、鉢としての寿命は短め。
  5. テラコッタは、イタリア語で「素焼きの土器」を意味する。主に地中海沿岸地域で生産され、日本に輸出されているが、日本製もあり、信楽焼などが出回る。生産地によって材料の粘土や焼成温度が違うため、性質も少しずつ違うが、焼成温度が800~1300℃と比較的高温なので、意外と硬く、丈夫である。焼き物鉢としては、やや通気性・排水性が劣るが、大きさ・デザインが豊富にあって楽しい。鉢の大きさのわりに鉢底穴が小さいので、土の水はけに気を付ける。
  6. その他、焼き物鉢のうち、鉢壁全体に釉薬をかけ、1100~1200℃の高温で焼いたものを、「化粧鉢」「釉薬鉢」などという。硬くて割れにくく、見た目に美しいので観賞に適するが、鉢壁に通気性・排水性が無く、結構重いのが欠点。鉢カバーとして使うのがおすすめ。
  7. プラスチック鉢は「プラ鉢」とも呼ばれ、合成樹脂で作られた鉢である。鉢壁に通気性・排水性が全く無いため土が過湿になりやすく、また、鉢壁に日光が当たると、すぐ土の温度が上がってしまうのが欠点。水はけのよい土を用い、鉢壁の部分を遮光するなどして、欠点を補う。しかし、軽くて壊れにくい、汚れが落ちやすい、色やデザインがきわめて豊富、などの利点が魅力である。
  8. 最近人気の「スリット鉢」は、プラスチック鉢の一種である。名前の通り、鉢底から鉢壁にかけて、スリット状の切れ込みが数本入っている。水はけが良く、適度に乾きやすいため、根腐れしにくい。また、鉢の中で根が長く伸びてとぐろを巻くことが無くなり、根張りが良くなって、植え替えの頻度が下がる。(スリットから入る光が当たることで、根の伸びが抑制されるため。)良いことずくめだが、植え替え作業が根の病虫害チェックを兼ねている点を考えると、頼りすぎは禁物。また、鉢底に足が無いか、あってもごく短いため、地面に直接置くと、スリットから病害虫が入りやすい。あと、現状では、デザインや色が豊富とはいえない。
  9. 再生紙で作った「紙製鉢」は、とても軽く、鉢壁の通気性・排水性が非常に良い。素朴な質感も味わい深い。しかし、紙なので当然、耐久性が無く、だいたい1~2年である。地面に直接置くと、さらに寿命が短くなるので注意する。耐水性はあるものの、水を含むと軟らかくなるため、水やりが少なくて済む植物に用いるとよい。
  10. 木で作られた「木製鉢」もある。木材を組み立てた鉢の他、酒樽を半分に切ったものも売られている。木材の種類は、オーク(ナラの仲間)やレッドウッド(セコイア)などさまざま。木製鉢は断熱性に優れ、通気性・排水性も、ある程度備えている。また、防腐処理がされているので、意外と腐りにくく、長持ちする。ただし、地面に直接置くと、底から腐り、シロアリなどの発生源になる。また、非常に重いのも欠点。
  11. 市販の苗は、軟らかいポリエチレン製の鉢に植えられているが、この鉢を「ポリポット」という。主に育苗用で、恒久的に植える鉢ではない。軽くて破損しにくく、しかも安価なため、広く使われている。よく見かける黒以外にも、さまざまな色の製品があるので、植物の種類や花色ごとに使い分けるとよい。

特殊な形の鉢

  1. すでに述べたように、鉢の形状は、普通鉢・半鉢・深鉢の三種類が基本である。しかし近年は、S字金具でフェンスや壁に引っ掛ける「壁掛け鉢」、ヒモや鎖で鉢ごと吊るせる「吊り鉢」、鉢底に脚と台が付いている「スタンド鉢」、側面に数個のポケットが付いている「ストロベリーポット」など、形状の種類が増えている。
  2. 壁掛け鉢は、場所を広くとれないベランダなどに最適。大きめのフェンスなどを設置し、たくさんの鉢を掛けると楽しい。そのまま掛けると鉢が手前に傾き、手前部分だけに水がたまって過湿になることがあるので、鉢底穴が手前寄りにあるものを選びたいぶ。鉢が傾かないよう、鉢の後ろに、何かクッションになる物をはさんで真っすぐにするのもよい。鉢が宙に浮いている分、風通しが良く、植物もよく育つが、土が乾きやすいので水切れに注意する。なお、マンションのベランダに掛ける場合は、落下しないよう、必ず、壁・フェンスの内側に掛ける。
  3. 吊り鉢は「ハンギング鉢」ともいう。鉢の縁の三~四箇所に、麻ヒモや鎖、ワイヤーなどが取り付けられ、好きな場所に吊るすことができる。茎が下垂する植物や、ほふく性の植物、つる性の植物などに最適。壁掛け鉢と同様、鉢が宙に浮いていて土が乾きやすいので注意する。また、鉢が重くなると落下しやすいので、専用の軽い土を用い、あまり大きく育つ植物は植えないようにする。
  4. 壁掛け鉢や吊り鉢は、普通、底に鉢皿が付属しているが、これは水が滴り落ちるのを防ぐためにある。そのままだと鉢の下部が水浸しになり、根腐れの原因になるので、下が濡れると困る場所に設置する場合を除き、常に外しておくのが望ましい。
  5. 「ハンギングバスケット」についても少々。ハンギングバスケットとは、バスケットにヤシ繊維のマットなどを敷いて土を入れ、植物を寄せ植えして、掛ける・吊るすなどして観賞するものである。厳密には鉢の一種ではなく、主にイギリスなどヨーロッパ方面で発達した「文化」といえる。バスケットの材質は、ワイヤーを組んだものや、側面にスリットや穴が開いたプラスチック製のものが一般的。バスケットの中敷きには、ヤシの繊維でできたマットや、ウレタン、スポンジ、水ゴケなどが使われる。ハンギングバスケットは、壁掛け鉢や吊り鉢に比べ、植物の植え方を自由にアレンジでき、より自然な空間演出が可能なことから、非常に人気が高い。土が乾きやすく、重くなると落下しやすく危険な点は、壁掛け鉢や吊り鉢と同じ。
  6. スタンド鉢は、普通の鉢に脚付き台を付けたものだが、茎が下垂する植物や、ほふく性の植物、茎葉がこんもりと茂る植物などを植えると、見栄えがする。大型のスタンド鉢は寄せ植えにも向く。
  7. ストロベリーポットは、本来はイチゴ専用だが、何を植えようと自由である。全体が壺型をした鉢で、側面に複数のポケットがあり、それぞれの穴に植物を植え込むことができる。場所の節約になるが、鉢内の土の量が多いため、鉢の中心部が過湿になりやすいのが欠点。過湿を避けるには、下記のようにして、鉢土の中心部に空洞を作る。
    まず、市販の鉢底網(自分でカットする大きめのもの)を丸めて筒状に縛り、筒の上部をふさいでから、鉢底に立てて置く。(鉢底網を円錐状に縛れば、上部をふさぐ手間が省ける。)鉢底網を立てたら土を入れるが、このとき、やや大粒の土を使えば、網の隙間から漏れにくく、水はけがさらに良くなり一石二鳥。こうすれば鉢土の中心部に、網で囲まれた空間ができ、過湿になりにくい。(もっとも、最近は円錐形の鉢底網が市販されており、小さめのストロベリーポットならそれで十分。)
  8. シクラメンの鉢物によく使われる「底面灌水鉢」は「底面給水鉢」とも呼ばれる。鉢の底に、水を貯める皿が付いているのが特徴。鉢土と貯水皿の中の水は、フェルト状のヒモでつながっており、それを伝って、水が鉢土に染み込む仕組みである。植物が吸い上げた分だけ下から水が上がるので、貯水皿の水さえ切らさなければ、過湿や水切れを起こしにくい。なお、この鉢を使うと、常に、土が適度に湿った状態になるので、根の発達は今ひとつとなる。また、土の上部に、肥料や水道水中の塩類が蓄積しやすいので、ときどき鉢土の上から水やりをし、塩類を下へ押し下げる。
  9. シダ植物の一種である「ヘゴ」の太い茎を乾燥させ、鉢の形に加工した「ヘゴ鉢」というものもある。これは、鉢壁の通気性・排水性がよく、洋蘭などの着生植物に適する。しかし、鉢壁の奥まで根が食い込むので、植え替えをしたければ、鉢を破壊しなければならない。そのくせ結構高価である。(ただし通常は、植え替えの必要はない。)
  10. 最近は、動物や貝殻、カゴ、果物、靴、皿、ジョウロ、手押し車など、一見、鉢とは思えないようなユニークな形状のものが、テラコッタやプラスチック鉢を中心に増えており、選択の幅が大変広くなった。これらの鉢は、既存の鉢の形状分類に属さないので、「変形鉢」などと呼ぶようである。
  11. 鉢とはいえないが、枯れ枝やバーク(樹皮)、コルク板、ヘゴで作った「ヘゴ板」「ヘゴ棒」、柱サボテンが枯れた残骸の「スケルトンウッド」、焼いた杉板、海岸に流れ着く流木なども、着生植物や多肉植物の栽培に使われる。なお、流木は、水抜き穴を開ければ、そのまま植物を植えて鉢の代わりにすることも可能。
  12. 横長の直方体型プランターのうち、比較的大型で寄せ植えに向くものを、「ウインドウボックス」と呼ぶことがある。これは、文字通り、植物で窓辺を飾るためのもので、ヨーロッパでよく見かける。たくさんの花を寄せ植えし、出窓に直接置いたり、専用のワイヤーで窓のフェンスに掛けるとよい。家じゅうの窓やベランダに飾ると見栄えがするが、落下するときわめて危険であることに留意し、人の出入りがある場所の真上には飾らない。

特定の植物専用鉢

  1. これまで挙げてきた鉢は、汎用性が高く、いろんな植物の植え込みに向くものばかりである。しかし、園芸にはさまざまなジャンルがあり、そのジャンルに合わせて作られた特殊な鉢が存在する。例えば、山野草専用の「山野草鉢」「滲み壺(しみ壺)」「水冷鉢」「断熱鉢」「トラフ」や、水生植物専用の「睡蓮鉢」「水鉢」、ラン専用の「東洋蘭鉢」「蘭鉢」、盆栽専用の「盆栽鉢」などが該当する。
  2. また、特定の種類の植物専用の鉢もある。「ウチョウラン鉢」「エビネ鉢」「オモト鉢」「キク鉢」「サクラソウ鉢」「ユキワリソウ鉢」などが一例。いずれも焼き物鉢で、植物の健全な生長と、観賞に堪える美しさを両立させる工夫が凝らされている。これらの専用鉢は少々値段が張るが、一部、プラスチック製の安価なものもある。なお、当たり前の話だが、これらの植物は、専用鉢でなくとも育つ。
  3. 山野草鉢は、素朴な風合いの焼き物鉢で、「山草鉢」ともいう。「焼締鉢(荒泥焼締鉢)」と呼ばれるものが、最も一般的である。釉薬がかかっておらず、適度な通気性・排水性があり、気難し屋の多い山野草の栽培に適する。日本各地に生産地があり、形状はさまざま。空の鉢を水に浸けたとき、気泡がたくさん出る鉢ほど、通気性に優れる。高温多湿に弱い山野草は、鉢底穴の大きい鉢に植えれば育てやすい。
  4. 滲み壺は、着生植物専用の素焼きの壺で、厳密に言うと鉢ではない。外側に植物を付着させて、壺の中に水をためると、壁面から水分が徐々に蒸発し、気化熱の作用で植物の根が冷える仕組みになっている。
  5. 水冷鉢は、一見、単なる肉厚の素焼き鉢だが、鉢底が二重になっており、網状の仕切りがある。下の層に水を貯めておくと、気化熱の作用で鉢内が冷える仕組みである。また、断熱鉢は、水冷鉢によく似るが、鉢底に貯水層を持たない。いずれも、鉢壁がきわめて肉厚のため、外気温が内部に伝わりにくく、また、鉢壁自体も空気と水をよく通すので、鉢土の温度が上がりにくい。暖地や平地で高山植物を育てたい場合に適する。
  6. トラフとは、英語で「飼い葉桶」を意味する。石製の飼い葉桶に植物を植え込んだのが始まりで、現在は、軽石や抗火石などの火山噴出物や、コンクリートで作った鉢などを総称してこう呼ぶ。一般的なのは、「軽石鉢」と「抗火石鉢」である。これらは、石を削って植え穴を作り、底に水抜き穴を開けただけの素朴な鉢だが、鉢壁が空気と水をよく通すので、内部の温度が上がりにくい。ただ、大変乾きやすいので、水を張った水盤に置いて管理するとよい。水切れを防ぐと同時に、気化熱の作用で鉢の内部が冷えて一石二鳥。過湿になる心配は無い。
  7. 「軽石鉢」「抗火石鉢」に似たものに、「石づけ」という植え方がある。具体的には、大きめの軽石に小さな植え穴を作り、植物を据えてケト土で固定し、最後にケト土の表面にコケを張ったものである。山野草や高山植物によく使われる植え方で、植え穴の底に水抜き穴が無いのが特徴。(軽石自体がよく水を通すので、過湿にならない。)年数が経つと、石の表面にコケなどが生え、風情が出る。「軽石鉢」「抗火石鉢」と同じく、通気性が良い反面、乾きやすいので、水を張った水盤に浸して管理することが多い。
  8. 睡蓮鉢と水鉢は同じもので、特に区別は無いようである。いずれも焼き物鉢だが、全体に釉薬がかかっており、鉢底に穴も無いので、水漏れしない。水圧に耐えるため、鉢壁は肉厚で、きわめて丈夫である。一般的には、中に泥を入れてスイレンやハスなどを植え込み、縁まで水を張って楽しむ。なお、石に丸い穴を開けて水をため、手洗いに用いる「つくばい」も「水鉢」と呼ぶが、つくばいに植物を植えることはない。
  9. ラン科植物専用の鉢には、シュンランやカンランなどの東洋蘭に用いる「東洋蘭鉢」と、洋蘭のうち、カトレアなど、着生する種類に用いる「蘭鉢」がある。東洋蘭鉢は、縦長の化粧鉢の一種で、底に三本の足が付いており、見栄えがよい。高級品は、鉢の側面に豪華な絵や模様が描かれている。蘭鉢は、素焼き鉢の一種で、鉢壁にたくさんの穴が開いており、通気性に優れる。
  10. キク鉢は、本来はキク専用の鉢だが、寸胴の円筒形をしており、土が多量に入るため、カリフラワーやズッキーニなど、大型の野菜の栽培にも用いられる。焼き物鉢とプラスチック鉢があるが、焼き物のほうは瓦と同じ材質で非常に重いため、プラスチック鉢を使うとよい。
  11. 盆栽鉢は、盆栽を飾って観賞する際に用いる、高級な鉢である。常滑焼のものが特に有名。釉薬のかかっていないものを「泥もの」、釉薬のかかったものを「色もの」または「釉薬もの」と呼ぶ。形状や大きさ、深さ、色はもちろん、鉢壁の模様や、足、角、縁(えん)の形に至るまで、きわめて変化に富む。なお、形状は、「正方鉢」「楕円鉢」「長方鉢」「八角鉢」「丸鉢」「木瓜(もっこ)鉢」「六角鉢」「輪花式鉢」などに分類されており、これらに当てはまらない鉢は「変わり鉢」と呼ばれる。

鉢を使う上での豆知識

  1. 鉢に土を入れるときは、鉢の縁ギリギリまで入れず、上2~3cmを空けておく。この空間を「ウォータースペース」といい、水やりの際は、このスペースにたっぷり水をため、鉢土に染み込ませる。なお、ウォータースペースが深すぎると、株元の風通しが悪くなり、蒸れやすくなるので注意。
  2. 最近は、釉薬のかかっていない焼き物鉢の鉢壁に、塗料で絵や模様を自由に描いているのを見かけるが、塗料は空気や水を通さないので、鉢壁の通気性・排水性は当然損なわれる。たくさんの絵を描いた鉢は、見栄え重視の「化粧鉢」として扱うのが妥当。
  3. 釉薬のかかっていない焼き物鉢で植物を育てていると、鉢壁に白い膜がこびり付くことがある。これはカビではなく、余分な肥料や水道水中の塩類が浮き出たものなので、あまり気にしなくてもよい。しかし、鉢壁が汚れすぎると、鉢壁の通気性・排水性が損なわれるので、ときどきタワシなどで洗い落とす。やや落ちにくいが、無理に全てをこすり落とす必要はない。
  4. 水生植物を植え込む「水鉢」の類は、しばしば、縁や底に、頑固な茶色い汚れが付着する。これは、土中に含まれる鉄分が固着したものらしい。こすっても落ちないので、塩素系漂白剤で落とす。
  5. プラスチック鉢は、さまざまな値段のものがあるが、安物は、日光や風雨のために劣化しやすく、下手をすると、素焼き鉢よりも長持ちしない。特に、鉢の縁から割れやすいので、薄手のものは避ける。なお、純白色の鉢は、他の色の鉢より劣化しやすい。
  6. 黒色のプラスチック鉢は、内部の温度が特に上がりやすいため、夏の間、鉢壁に直射日光が当たらないよう注意する。また、白いプラスチック鉢は、鉢壁が薄いと日光を通すので、根の生長が悪くなったり、内部に藻が生えることがある。
  7. 鉢の下に「鉢受け皿」を敷く場合は、根腐れを防ぐため、水やり後に、たまった水を捨てるのを忘れない。鉢を雨に当たる場所においた場合は、鉢受け皿を敷いてはいけない。

鉢底穴・ゴロ土

  1. 市販の鉢物を購入すると、よく、外側の鉢の中に、もう一つ鉢(またはポリポット)が入っていることがある。この場合、外側の鉢と内側の鉢で、鉢底穴の位置がずれていると、排水がうまくいかず、過湿になることがある。どちらか一方の鉢を抜き取るとよい。
  2. 鉢底穴は、焼き物鉢の場合、真ん中に丸い穴が一つ開いているだけである。小型~中型の鉢ならそれでもよいが、10号を超えるような大型の鉢だと、水はけが悪くなるので、ドリルなどで穴を増やしたほうがよい。穴を開ける位置は、余分な水が停滞しやすい鉢壁付近が適する。なお、慣れないうちは、鉢を割ることがあるので、あらかじめ鉢の中に砂をきつく詰め込み、そのままうつ伏せにして作業すると、衝撃が和らぎ、鉢が割れにくい。
  3. プラスチック鉢は、水はけを少しでも確保するために、たくさんの鉢底穴が開いている。もし鉢壁の付近に穴がなければ、上記のように、ドリルで穴を追加したほうがよい。プラスチック鉢は、焼き物鉢と違って割れにくいので、作業時に、中に詰め物をする必要はない。
  4. 鉢底穴の数を増やすばかりでなく、元からある穴を広げて大きくするのも、良い方法である。鉢底穴が大きいほど、鉢底に余分な水が停滞しなくなり、根腐れしにい。
  5. スイレンやハスなどの水生植物を植え込む鉢(「水鉢」)には、当然、鉢底穴は必要ない。
  6. 鉢底穴を塞がずに土を入れると、当然、底から抜け出てしまうので、市販の鉢底網や、割れた鉢の破片などでふさぐ。完全にふさぐと、余分な水が抜けにくいので、土が漏れない程度にすき間を空けておく。なお、鉢底網は、網戸用の網などで代用してもよい。銅製の網を使うと、ナメクジ除けにもなる。
  7. 市販の鉢底網の中には、半球状・円錐状に盛り上がっているものがある。これは、東洋蘭など、根が特に空気を好む植物に使うものである。やや値段が張るが、この鉢底網を使えば、鉢底の通気性を確保できるので、根腐れしにくい。
  8. 多くの鉢は、底に、短い足が付いており、鉢底が直接地面に触れないようになっている。が、スリット鉢や、大型のテラコッタなどの中には、足が無く、鉢底が地面にぴったり接してしまうものがある。そのような鉢は、余分な水が底から抜けにくく、また、鉢底の通気性も非常に悪くなるので、ワイヤー製の専用スタンドの上に載せるか、「ポットフット(鉢底に敷く小さな素焼きの足で、三個一組で用いる)」を敷くなどして、鉢底を地面から浮かせる。
  9. 鉢底にゴロ土を入れる理由は、土の水はけを少しでも改善するためである。しかし、4.5号以下の小さな鉢は、そもそも土中に水が滞留しにくく、また、鉢土の量が減ってしまうことから、ゴロ土を入れる必要はない。
  10. ゴロ土に、大粒の赤玉土などを用いると、ゴロ土自体が水をたっぷりと含んでしまい、水はけを改善する効果が薄いばかりか、水やりのたびに土の粒が少しずつ崩れ、それによって生じた微塵(径1mm未満の微細な土の粒)が、土の水はけをさらに悪化させる。ゴロ土には、水を含まない発泡スチロール片や、乾きやすい大粒の軽石などが適する。市販の「鉢底土」を使うのもよい。(とはいえ、よほど大鉢でもない限り、大粒赤玉土でも特に問題はない。ただし、土粒の崩れにくい「硬質赤玉土」に限る。)
  11. ゴロ土を入れれば、必ずしも水はけが改善できるとは限らないので、面倒なら、無理に入れる必要はない。ただ、ゴロ土には、鉢土の土留めとしての役割もあり、入れておいたほうが、鉢底から流れ出る土の量を減らせる。

大きな鉢に小さな植物

  1. 最近は、大型の鉢に植物を寄せ植えして楽しむ「コンテナガーデン」が人気である。しかし、植物を、根の量に比べて大きすぎる鉢に植えると、水やり時の土中の水分量が、根が吸い上げる水分量をはるかに上回り、過湿になりやすい。こと鉢に関しては、「大は小を兼ねる」ことはない。
  2. 小さな植物を、どうしても大型の鉢に植えたければ、鉢の高さの1/3~1/2くらいまでゴロ土(発泡スチロール片や大粒の軽石、鉢底土など)を入れ、その上に土を盛って、植物を植え込む。鉢も軽くなって一石二鳥。土の深さが15~20cmもあれば、大抵の植物は育つ。
  3. また、「大鉢の中に、小さめの鉢を逆さまに伏せて鉢置き台とし、その上に鉢植えを置く」という方法や、「小さな鉢に植わっている植物を、鉢から抜かずにそのまま大鉢に植え込む」といった方法でもよい。すき間に土を入れ、表面をバークや水ゴケなどで覆って鉢を隠せば完璧。この場合、大鉢は単なる鉢カバーとなる。

使用済み鉢の扱い

  1. 一度使用した焼き物鉢を再利用する場合は、よく水洗いしてタワシなどで汚れを落とし、通気性・排水性を回復させた上で、煮沸消毒するのが理想。または、漂白剤の50~100倍液に一晩漬け込み、よく洗って乾かしてもよい。その他、よく水で濡らしてから、電子レンジやオーブンで短時間加熱する、という手荒な消毒法もある(割れに注意)。
  2. なお、ランが植わっていた鉢は、ウイルス感染の危険が大きいため、ラン科植物に対して再利用してはいけない。ラン以外の草花などを植えるのは大丈夫。(ランのウイルスは、ラン科植物にしか感染しないものが多い。)
  3. 鉢を割ってしまった場合、プラ鉢はそのまま廃棄するが、焼き物鉢だった場合は、破片を、鉢底網の代わりとして底穴の上に敷いてみたり、鉢底に敷くゴロ土の代わりにしてみたり、といった使用法がある。破片の形状によっては、ポットフットの代わりにもなる。意外と便利なので、割ってしまったからといって、すぐに捨てない。