園芸知識:取り木
概要
- 「取り木」とは、枝や茎の一部を人為的に傷付けたり、土に埋めるなどして、新しい根を発生させる繁殖方法である。十分に根が出たら親株から切り離し、苗として独立させる。たとえ失敗しても、親株を枯らす危険が少なく、気軽に行えるのが利点。
- 例えばカエデ類やシャクナゲ、マツ類のように、挿し木や接ぎ木が難しい植物でも、取り木なら可能なことが多い。取り木の欠点は、一度に大量の苗を作れない、発根するまで2~5ヵ月ほどかかる、という点くらいである。
- 取り木で殖やせる植物はかなり多く、挿し木のできる木なら大抵、可能である。取り木する枝は、できれば発生後1~4年以内で太さ1~1.5cmくらいの若い枝を選んだほうがよい。5~6年以上経った古い太枝でも取り木できるが、発根率が低下したり、時には、全く発根しなかったりする。
- 取り木の方法は、大きく分けて下記の三種類がある。いずれの方法も、発根を促す目的で、茎や枝に傷を付けておくのが普通である。
- 高取り法…茎や枝の途中を水苔でくるむ方法。傷の付け方によって、「環状剥皮」「半月削り」「切り込み」「針金巻き」の四通りに分かれる。
- 圧条法…茎や枝の一部を曲げて土に埋める方法。これに似た方法に、「先取り法」「土中取り木法」「波状取り木法」がある。
- 盛り土法…茎や枝を曲げず、上に土をかぶせて埋める方法。
- 取り木の作業時期は、植物の種類や、取り木の方法によって異なるが、基本的に、生育期間の前半に当たる3~7月、特に4~5月に行うのが最もよい。落葉樹は萌芽前の1~3月に行ってもよい。常緑樹は、生育期間の後半に当たる8~10月にも作業できるが発根率が悪く、たとえ発根しても、親株から切り離せるまで半年以上かかることがある。なお、観葉植物をはじめとする熱帯性の植物は、気温の高い5~8月頃に行うが、発根に時間がかかることを考え、なるべく早めに済ませる。
- 「高取り法」「圧条法」「盛り土法」のいずれの場合も、発根する前に、取り木した枝が枯れ始めたら、早めに枯れ葉や枯れ込んだ部分を切り取り、回復を待つ。枝が生きてさえいれば、また芽が出てくる。状態が改善しないようなら、その枝はあきらめ、別の枝で取り木をやり直す。
- 植物の種類を問わず、取り木をする位置より下にも枝葉があるほうが、成功率が高まる。
- 枝や茎を傷付ける際は、樹液で手がかぶれないよう注意する。皮膚が弱い人は手袋をするとよい。
- 「高取り法」は、形の良い枝ぶりをそのまま苗にできることから、盆栽の世界でよく行われる。また、下葉がなくなり、伸び上がってしまった植物の仕立て直しにも向く。枝や茎の傷付け方によって、「環状剥皮」「半月削り」「切り込み」「針金巻き」の四通りがあるが、基本の手順は全て同じ。
- 最も一般的な「環状剥皮」の手順を下記に示す。この方法は「剥き取り法」ともいう。
- 市販の乾燥水ゴケを水に浸して数時間~一晩置き、しっかり吸水させる。
- 株全体の枝ぶりをよく見て、根を出させたい部位を決める。節の部分は特に発根しやすいので、できればそこを選ぶ。その上下に邪魔になりそうな枝があれば、根元から切っておく。
- 鋭い刃物を使い、枝の表皮を、淡褐色の木質部が見えるまで、ぐるりと環状にはぎ取る。この時、表皮のすぐ下にある形成層を残さないよう注意。はぎ取る部分の幅は、枝の直径の1.5~2倍が目安。つまり、直径1cmの枝なら1.5~2cmほどはぎ取る。ただし、太い枝を取り木する場合はこの原則に従う必要はなく、幅3~4cmほどはぎ取ればよい。
- 剥皮後、枝がぐらつくようなら、支柱などを当てて安定させる。
- 発根率を上げたければ、表皮をはいだ部位のすぐ上に、「オキシベロン」「ハイフレッシュ」「ルートン」などの発根促進剤を付ける。
- 表皮をはぎ取った部位を、湿らせた水ゴケでくるむ。皮をはいだ部分が見えないよう、しっかりとくるんだら、その上から、さらにビニールでくるみ、上下をヒモで縛って密閉する。なお、くるむビニールは、透明なものより、濃色で光を通しにくいものを用いたほうが発根しやすい。
- 取り木した枝に直射日光が当たると枯れる原因になるので、その部分だけ寒冷紗などで遮光する。
- 植物によるが、だいたい2~5ヵ月で発根するので、それまでは決して乾かさない。乾き始めたら、上のヒモをゆるめ、水やりをする。
- 十分に発根し、たくさんの根が見えるようになったらビニールを外し、根が出ている部位の数cm下で、親株から切り離す。この作業は時期を焦ると失敗するので、その植物の植え替え適期を選んで行うとよい。
- 根を傷付けない程度に水ゴケを取り除き、鉢などに植え付ける。作業後は二週間ほど、涼しい半日陰で管理し、乾かないようしっかり水やりをする。活着したら通常の管理に戻す。
- 「半月削り」は、上記の「環状剥皮」によく似た方法で、「半月切り」ともいう。違いは、表皮をぐるりと全部はぐのではなく、部分的に削り取る点である。最低でも四箇所以上削り取るのがコツ。(四箇所削る場合は、枝の断面を円に見立てて、0°、90°、180°、270°の場所を削る。)「環状剥皮」よりも、取り木中に枝枯れする危険が少なく、より安全な方法といえる。
- 「切り込み」は、「切り込み削り」「削ぎ上げ」「舌状剥皮」ともいい、枝の表皮をはがすのではなく、ざっくりと切り込みを入れる方法である。発根させたい部位に、斜め下から刃物を入れ、枝の太さの1/3~1/2程度まで切り込みを入れる。刃物を入れる角度は、枝に対して斜め20°~30°くらいとする。(枝を切断するわけではないので、あまり大きな角度で入れない。)切り込みを入れたら、そこに湿らせた水ゴケをはさみ(多くはさみすぎて裂けさせないよう注意)、上記と同様に、枝を水ゴケとビニールでしっかりくるみ、発根を待つ。
- 「針金巻き」は、「針金縛り」「リンギング」ともいい、発根させたい部位に、針金を一~三重に巻き付ける方法である。枝にめり込むほど強く締め付けるのがコツ。針金を巻き終えたら、その部分を湿らせた水ゴケでくるみ、上記と同様にして発根を待つが、この方法は、他の方法に比べ、発根するまで若干時間がかかる。
- アンスリウムやゴムノキ、ヤシ類などのように、日頃から、枝や茎の途中に根が発生しやすい植物は、わざわざ傷を付けなくても、発根しかけている部分を水ゴケでくるむだけで、十分に根が張る。
- 「高取り法」に用いる用土は水ゴケが一般的だが、赤玉土の小粒も使える。ただし、赤玉土は枝に巻き付けにくいため、先にビニールを巻き付けて下を縛り、その中に土を流し込むとよい。
- 「圧条法」は、株立ち(土から細い枝がたくさん伸びる樹形)になる植物や、細い枝が地面を這う植物に向く取り木法である。別名、「普通取り木法」「枝伏せ法」「えん枝法」「傘取り法」「伏せ木法」「曲げ取り法」とも呼ぶ。手順を下記に示す。
- 樹形の外側に位置し、かつ、地面に倒しやすそうな、元気の良い若枝を選ぶ。作業の数日前から水やりをせずにおくと、枝が軟らかくなり、曲げやすい。
- 枝が決まったら、倒す予定の場所に深さ10cm程度の穴を掘る。
- 折らないよう細心の注意を払いながら、枝をU字型に曲げ、穴に押し込む。この時、枝先が15~30cmほど地表に出るようにする。
- 枝を押し込んだら、二又の枝や、逆U字型に曲げた針金などを使い、固定する。石やブロック片などで重しをしてもよい。(枝を折らないよう注意。)しっかり固定しないと枝が跳ね上がるので注意。
- 穴に土を戻し、枝を埋める。埋める深さは5~10cm程度あれば足りる。
- かぶせた土に水やりをし、発根を待つ。発根まで時間がかかるが、その間、決して乾かさない。
- 十分発根したと感じたら、発生した根を傷付けないよう注意しながら土を掘り、親株から切り離して、苗として独立させる。このとき、掘り上げた苗の根の量が少なければ、地上部の枝葉を少し切りつめ、萎れるのを防ぐ。
- 「圧条法」は、「高取り法」と違って、発根を目で確認できないので、親株から切り離すのを焦らない。発根が十分かどうか分からなければ、一年くらいそのままにしておくのも手。苗の掘り上げは、早すぎると確実に失敗するが、少しくらい遅れても支障はない。
- 「圧条法」は、枝をそのまま埋めると、発根まで、かなりの時間がかかる。そのため、上の方で述べた「高取り法」と同様にして、枝に切り込みを入れるか、針金を巻き付けて傷付けると、発根が早まる。傷付けた部分に、「オキシベロン」「ハイフレッシュ」「ルートン」などの発根促進剤を付けておくと、なお良い。
- 「圧条法」と似た取り木法に、「先取り法」「土中取り木法」「波状取り木法」の三つがある。これらの方法は、行える植物の種類が少ない。
- 「先取り法」は、枝の先端、または先端から5cmくらいの部分を土に埋める方法である。埋める深さは3~5cmもあればよい。その他の手順や注意点は「圧条法」と全く同じ。行える植物は、ウンナンソケイ、オウバイ、ジンチョウゲ、デューベリー、ヒュウガミズキ、ブラックベリー、ラズベリー、レンギョウなど。
- 「土中取り木法」は、枝をほぼ水平に倒して、その大部分を土に埋める方法で、「撞木(しゅもく)取り木法」ともいう。枝先の2~3節は埋めずに地表に出しておく。埋める深さは、最初は3~5cm程度とし、土中から新芽が伸びてきたら、その生長にあわせて少しずつ土をかぶせ、最終的には深さ10cm程度とする。この新芽の一つ一つが、新しい苗になるので、増殖効率がよい。行える植物は、クワ(マルベリー)、ツルコケモモ、つるバラ、ハンノキ、ブドウなど。
- 「波状取り木法」は、「圧条法」とほとんど同じ。違いは、「圧条法」が枝の一箇所だけを土に埋めるのに対し、「波状取り木法」は、二箇所以上曲げて埋める点である。この方法も、一本の枝から複数の苗を得られるので増殖効率が良い。つる性植物でしか行えないが、この方法で殖やせる植物の数は結構多い。
- 「盛り土法」は、「根取り法」ともいい、地際付近からたくさんの枝が出る植物に向く繁殖方法である。枝を曲げて土に埋めるのではなく、株元に土を高く盛り上げて、枝の基部を20~30cmほど埋め、それぞれの枝から発根させる。枝の一本一本が新しい苗になる。行える植物は、コデマリ、シモツケ、ボケ、ミツマタ、モクレンなど。
- 土を盛ると、雨や水やりなどで、とかく土が流れがち。土の山が低くなってきたら、その都度、新しく盛り直し、盛り土の高さを維持するのを忘れない。
- 「盛り土法」を行いたいのに、地際に枝が無いい場合は、春先に、地上部を、地際付近までばっさり切り、若枝がたくさん発生するのを促す。枝が出たら、その翌年の春に、取り木作業を行う。体力の無い株だと、ばっさり切ってしまうと芽を吹かず、そのまま枯れることがあるので注意。
- 「盛り土法」を行う場合も、上で述べた「高取り法」「圧条法」と同様に、発根させたい部位の樹皮を削ったり、切り込みを入れたり、針金を巻き付けるなどすれば、発根率が上がる。なお、切り込みを入れた場合は、その傷が癒合しないように、切り口に水ゴケや石などをはさんでおく。その上で、発根させたい部分に発根促進剤を付けておけばもう完璧。
- 「盛り土法」は、株の増殖だけでなく、接ぎ木苗から自根(台木の根ではなく、接がれている穂木の根)を出させたい場合も有効である。例えば、ボタンはシャクヤクに接ぎ木されていることが多く、自分の根を持たないため、シャクヤクの根に養ってもらっている。しかし、この状態では長生きできないため、早めに、ボタン自身の根を出させなければならない。ボタンとシャクヤクの境界は分かりやすいので、それより高い位置まで土を盛れば、やがて、ボタンの穂木から自根が数本発生する。こうなれば、たとえ台木のシャクヤクが枯れても、ボタンは自分の根で生きられる。
- ただし、接ぎ木苗から自根を出させるのが目的の場合は、穂木の衰弱を防ぐため、傷を付けて発根を促すのは好ましくない。土を盛るだけにするか、針金を巻く程度で我慢する。
- 「盛り土法」も、上記の「圧条法」と同様、発生した根が目で見えないので、親株から切り離すのを焦らない。通常は、作業後2~5ヵ月で発根するが、半年~一年くらいそのままにしておき、十分に発根したのを見計らってから掘り上げてもよい。