いろんな植物の育て方や知識をご紹介。

素人園芸解説 -私はこう育て る-

園芸知識:薬剤

概要

  1. 「農薬」という言葉は、広義では「植物を加害する生物を防除する目的で使用される物質」全てを指す。牛乳だろうが、食品添加物だろうが、生きた昆虫だろうが、石鹸だろうが、病虫害防除の目的で使う限り、例外なく「農薬」である。しかし、狭義では、その目的で使用される薬剤だけを指す。
  2. 農薬の種類には、殺虫剤・殺菌剤・殺鼠剤・除草剤・忌避剤・誘引剤などがある。また、「植物の生長を調整する薬剤(着果促進剤・発根促進剤・落花防止剤・矮化剤など)」も、同様に農薬として扱われる。
  3. 日本では、殺虫剤・殺菌剤・除草剤の三種類について、「RACコード」というコードを用いて細かく分類している。殺虫剤は「IRACコード」、殺菌剤は「FRACコード」、除草剤は「HRACコード」、と呼ぶ。分類の基準は、駆除対象に対する作用の仕方である(例…殺虫剤なら「神経に悪影響を与える薬」「成長を阻害する薬」など)。同じコードに分類されている農薬は、たとえ商品名が違っていても、同じ薬として扱う。もっとも、家庭園芸では、RACコードを意識することはほぼ無い。
  4. 農薬は、使わないに越したことはない。たとえ毒性が低くても、いわゆる環境ホルモン(内分泌攪乱物質)疑惑や、発ガン性疑惑、ダイオキシン含有・発生疑惑など、農薬がらみの問題点は、常に山積している。また、近年は、無登録農薬(ヤミ農薬)の使用が明らかになったり、輸入野菜から高濃度の残留農薬が確認されるなど、日本国内で農薬を取り巻く環境は、年々厳しくなっているといえる。
  5. 日本国内では、全ての農薬は、厳しい確認試験をクリアし、農薬取締法に基づいて登録を受けなければならない。登録は更新制で、有効期間は3年である。登録済みの農薬は、箱や説明書に登録番号が明示されている。また、その農薬の適用作物(その薬を使ってもよい植物)や適用病害虫(その薬で抑えられる病害虫)、総使用回数なども、厳密に決められており、やはり箱や説明書に明示されている。
  6. 「無登録農薬」とは、そもそも農薬として登録されていないか、過去に登録されていたが失効した農薬をいう。また、適用作物ではない食用農作物に対して使用した場合も、「無登録農薬」と呼ぶことがある。
  7. 農薬は、毒性の強さによって、「特定毒物>毒物>劇物>普通物」のようにランク付けされている。当然ながら、毒・劇物の類は、入手方法や使用方法はもちろん、使用後の容器の処理まで細かく規定されており、気軽に使うことはできない。購入には押印が必要である。
  8. 家庭園芸で使用される主な薬剤は、「普通物」である。普通物とは、「毒性が無い」という意味ではなく、「毒・劇物に指定されていない薬剤」である。つまり、「毒性が全く無いわけではないが、毒・劇物に比べると低く、比較的安全性の高い薬剤」といえる。
  9. 普通物として扱われる薬剤は、毒・劇物とは違い、一般の園芸店やホームセンターなどで気軽に購入できる。だからといって、植物に病虫害が出るたびに、安易に頼るのは好ましくない。
  10. 薬剤の毒性には、以下のようなものがある。正しい知識を持って薬剤を適正に使用する限り、過度に恐れる必要は無いが、知識として頭に入れておきたい。
    • 急性毒性…短時間に、多量の薬剤を摂取・吸入・被爆した時に発現する毒性。主な中毒症状は、皮膚かぶれ・視覚障害・頭痛・目眩・吐き気・下痢などがあり、ひどいときは死亡する。中毒の原因は、多くの場合、薬剤の使用方法や保管方法の誤りといわれる。
    • 慢性毒性…長期間に渡り、小量~適量の薬剤を摂取・吸入・被爆し続けたために、体内に蓄積し、発現する毒性。自覚症状の無いことが多いが、状態が継続すると、さまざまな病気やアレルギー症状を呈し、結果的に寿命が縮む。
    • 残留毒性…作物や野菜に残留した薬剤を、長期間に渡って摂取し続けることにより、体内に蓄積し、発現する毒性。使用された薬剤は、通常、雨で洗い流されたり、紫外線や微生物に分解されたりするが、何らかの形で、作物や野菜、あるいは土の中に残留することがある。(土に残留した薬剤が根から吸収されると、作物や野菜の中に蓄積する。)薬剤の使用量や使用回数・間隔、適用植物の種類、廃棄の仕方などがずさんだと残留量が多くなる。
    • 魚毒性…魚を始めとする水生生物全般に対して発現する毒性。毒性の強さによって、「A類<B類<Bs類<C類<D類」に分けられている。外箱や説明書に明記されているので、使用前によく確認し、適切に取り扱う。なお、D類は「水質汚濁性農薬」で、使用に厳格な規制が設けられており、家庭園芸で使うことはまず無い。
  11. 薬剤は、安易に使いすぎると、有益な虫や菌まで殺してしまうものが多い。その結果、天敵がいなくなり、結局、害虫や病原菌がはびこることがある。(「リサージェンス」という現象。)その上、薬剤に抵抗性を持つ、特異な個体を増やしてしまう。抵抗性を持つ害虫や病原菌に対しては、別の薬や、さらに強い薬で対抗するしかなく、そうしたことを繰り返すうちに、さまざまな薬剤に耐性を持つ、最強の害虫や病原菌を誕生させかねない。そして現在、マメハモグリバエなど、ごく一部の害虫が、それに近い位置にいるらしい。
  12. なお、抵抗性の獲得は、突然変異や、鍛錬による賜物ではない。薬剤に抵抗性を持つ菌や虫は、普段から、自然界にごく少数存在している。常日頃は、抵抗性を持たない多数派に抑え込まれているが、その多数派が薬剤で一網打尽にされると、一気に数を殖やし、その実力を見せつける。それに対して人間が別の薬剤で攻撃すると、また同じ事が起きる。それを繰り返すことで、手に負えない抵抗性個体が誕生する、という理屈。
  13. 日頃から、植物の日当たりや風通し、施肥量などを適切に管理し、連作を避け、清潔に育てることが、最大の病虫害予防策である。付近の雑草など、病原菌や害虫の中間奇主となる植物を駆除するのも忘れない。(例えば、赤星病の病原菌は、まずビャクシン類に寄生し、その後、カイドウやナシ、ボケなどに伝染する。)さらにもう一つ、「人間による頻繁な見回り・観察」もまた、病虫害予防に欠かせない要素である。

薬剤の形態と効き方

  1. 市販の園芸用薬剤には、以下のような形態がある。なお、「有効成分」とは、補助成分(添加物)や不純物などを除いた、実際に効く薬の成分そのものをいう。(「原体」とも呼ぶ。)
    1. 液剤…有効成分を、トルエン、ベンゼンなどの有機溶媒に溶かしたもの。普通は水で希釈して使う。薬液は透き通っている。
    2. 乳剤…有効成分に乳化剤を加え、有機溶媒(トルエン、ナフサ、ベンゼンなど)に溶かしたもの。水で希釈して使う。薬液は白く濁っている。展着剤は最初から含まれるので不要。比較的薬害が出やすく、塗装面に付着すると、変色させることがある。
    3. 水溶剤…水に溶けやすい有効成分に、増量剤などの添加物を加え、粉末や錠剤などに加工したもの。水に溶かして使う。薬液は透き通っている。
    4. 水和剤…水に溶けにくい有効成分を、タルク(細かい石粉)やベントナイト(珪藻土など)などに吸着させ、添加物を加えて粉末や錠剤などに加工したもの。水で溶いて使う。水溶剤と違い、完全に水に溶けることはないので、ときどき薬液を撹拌しながら散布する。
    5. フロアブル剤(ゾル剤)…水に溶けにくい有効成分を、微細な粉末に加工し、水で溶いて液状にしたもの。普通は水で希釈して使う。水和剤の一種だが、より使いやすい。
    6. 粉剤…有効成分を、タルク(細かい石粉)やクレー(粘土)などの添加物と混合し、粉末に加工したもの。そのまま植物にかけたり、土の表面に散布したり、土中に混入して使う。飛散しやすいため、吸入しないよう注意する。
    7. 粒剤…粉剤と同様に、有効成分を鉱物粉末に吸着させてから、粒状に加工したもの。土の表面に散布したり、土中に混入して使う。大きな樹木などには不向き。また、土が乾燥していると効果が落ちる。
    8. ペレット剤…粒剤に似るが、粒がとても大きい。種類は少なく、アリ・ナメクジ・ネキリムシを誘引殺虫する製品が、いくつかある程度。湿った場所では、薬の粒がふやけたりカビたりして、効果が落ちる。
    9. 粉粒剤…薬剤の粒の大きさが、粉剤と粒剤の中間のもの。粒の小さなものから順に、「微粒剤F」「微粒剤」「細粒剤F」に分けられる。
    10. 溶液…水に溶けやすい有効成分を、水に溶かし、そのまま容器に封入したもの。水で希釈して使う。
    11. くん煙剤…気化しやすい有効成分と燃焼剤を、缶や筒に封入したもの。火を点けると有効成分が気化し、煙となって出てくる。家庭園芸では、あまりなじみがない。
    12. くん蒸剤…気化しやすい有効成分を、ボンベなどに封入したもの。常温下で気化するものと、水分があると気化するものがある。密閉状態下で使用する。家庭園芸では、あまりなじみがない。
    13. マイクロカプセル剤(MC剤)…有効成分を、きわめて微小なカプセルに封入したもの。カプセルが崩れるにつれて、徐々に効果が現れる。家庭園芸では、あまりなじみがない。
    14. 油剤…有効成分を油状の有機溶媒に溶かしたもの。主に土壌消毒用で、土中に灌注するとガス化し、土中の菌類や虫を死滅させる。家庭園芸では、あまりなじみがない。
    15. エアゾール剤…家庭用殺虫剤によく見られる形で、薬液がガスとともに缶に入っている。製品によっては、最低30cm離して散布しないと、植物に冷害が出る。(最近は、冷害の心配の無い製品もある。)
    16. スプレー剤(原液剤)…こちらも家庭用殺虫剤によく見られる形で、噴霧器の形をした容器に薬液が入っている。最も気軽に使える。
  2. 有効成分の効き方は、以下のように分類される。状況によって使い分けたい。
    • 残効性…使用後、長期間に渡って効果を現し続けるもの。
    • 即効性(速効性)…使用後、即座に効果の現れるもの。効果は長続きしない。
    • 遅効性…使用後、効果が現れるまで時間のかかるもの。効果は長続きしない。
    残効性のある薬剤は便利だが、ハーブや野菜など、口に入れる植物に対しては使うべきでない。
  3. 家庭園芸において、最もよく使われる薬剤は、殺虫剤と殺菌剤であろう。その他の薬剤(殺鼠剤・除草剤・忌避剤・誘引剤・植物生長調整剤など)は、農家ならともかく、一般家庭ではそれほど使わないと思われるので、下の方に簡単にまとめるだけにとどめた。
  4. 殺虫剤と殺菌剤を混合した薬剤を「殺虫殺菌剤」という。いちいち希釈するなどの手間がなく、気軽に使えるためか、近年は、スプレータイプの製品が数多く発売されている。

殺虫剤

  1. 殺虫剤とは、植物を加害する昆虫のほか、センチュウやダニ、ナメクジなどを殺す目的で使用する薬剤である。
  2. ひと口に殺虫剤といっても、効果のある害虫の範囲はさまざま。使用前に説明書をよく読むなどして、防除したい害虫に適したものを使う。例えば、殺ダニ剤(ダニ類専用殺虫剤)でアブラムシやナメクジは駆除できないし、逆もまた然りである。ちなみに、防除効果の範囲が広い薬剤を「汎用的薬剤」、特定の害虫だけに効果のある薬剤を「選択的薬剤」と呼ぶ。
  3. 害虫に対する殺虫剤の作用の仕方には、以下のようなものがある。
    • 気化吸収剤(ガス剤・ガス毒)…有効成分がガス化し、それを害虫が吸引することで効果を現す。
    • 食毒型殺虫剤(消化中毒剤・毒剤・食毒)…有効成分が植物の表面に付着し、それを害虫が食べることで効果を現す。
    • 浸透移行性殺虫剤(浸透殺虫剤・浸透性殺虫剤)…有効成分が植物の表面から吸収され、その汁液を害虫が吸うことで効果を現す。
    • 接触性殺虫剤(接触毒)…有効成分が害虫の表面に付着・吸収されることで、効果を現す。
  4. 浸透移行性殺虫剤は、有効成分が植物の根や茎葉から直接吸収され、植物体全体に広がるのが特徴。そこに害虫が付き、葉をかじったり汁を吸ったりして、初めて効果を発揮する。多くの殺虫剤は、有益な天敵や無関係な虫まで一網打尽にする欠点があるが、浸透移行性殺虫剤は、その心配が少ない。(とはいえ、全く影響が無いわけではない。直接かかったりしたらアウト。)オルトラン、ベストガード、モスピランなど。
  5. 一般的な家庭用殺虫剤には、以下のようなものがある。比較的低毒性とはいえ、一度に多量に摂取したり、継続して摂取し続けたりすれば、中毒を起こすことがある。扱いは慎重に。
    1. 合成殺虫剤(人工合成殺虫剤)…文字通り、人工的に合成された化学物質。害虫類に対して、何らかの生理活性を有する。
      1. 有機リン剤(有機リン系殺虫剤)…多くは接触毒だが、ガス毒や食毒、浸透性として作用するものもある。速効性だが分解が早く、残効性が低め。動物の神経系統に作用し、機能を阻害する。抵抗性を持つ害虫有り。アクテリック、アンチオ、エカチン、エストックス、エルサン、オルトラン、パプチオン、オフナック、カルホス、キルバール、サイアノックス、ジメトエート、スプラサイド、スミチオン、ダイアジノン、ダイシストン、ディプテレックス、トクチオン、バイジット、マラソン、レルダン、DDVP、EPNなど。
      2. カーバメート剤…主に接触毒として作用する。有機リン剤と作用が似ており、神経系統の機能を阻害する。抵抗性を持つ害虫有り。アルカリ性薬剤との混用不可。アドバンテージ、アリルメート、デナポン、バイデート、ピリマー、ランネート、NACなど。
      3. 合成ピレスロイド剤…主に接触毒や食毒として作用する。除虫菊に含まれる殺虫成分「ピレトリン」に類似した化学構造を持つ。速効性で、残効性に優れる。抵抗性を持つ害虫有り。高温時は効果が低下する。アグロスリン、アディオン、カダンA、サイハロン、テルスター、トレボン、ベニカソフトなど。
      4. ネライストキシン剤…主に接触毒や食毒として作用する。釣り餌に使われるイソメ(環形動物の一種で、ミミズとゴカイを足して2で割ったような姿)から作られる殺虫剤。遅効性で、残効性に優れる。パダンなど。
      5. IGR剤(脱皮阻害剤・昆虫成育制御剤・昆虫成育阻害剤・昆虫成長制御剤)…昆虫の体表皮を構成するキチン質の合成を阻害することで、脱皮を行えなくし、死に至らしめる薬剤。従って、効果があるのは幼虫のみ。脱皮の時期が来るまで効き目を現さないため、きわめて遅効性。残効性に優れる。アタブロン、アプロード、カスケード、ノーモルト、ロムダンなど。
      6. 有機塩素剤…主に接触毒や食毒として作用する。残効性。戦前戦後はよく使用されていたが、自然界で分解されにくく、人畜に対する残留毒性も強いため、現在はほとんど使われない。
      7. 殺ダニ剤…速効性~遅効性。残効性有り。ダニ類は昆虫ではなく、通常の殺虫剤が効かないことが多いため、専用の薬剤を使う。ただしダニ類は抵抗性が付きやすいため、同じ薬剤の連続使用を避ける。エイカロール、オサダン、コロマイト、ダニカット、テデオン、ニッソランなど。
      8. その他…殺ナメクジ剤(ナメキール、ナメトックス、ナメトリン、マイキラー、マイマイペレットなど)、石鹸(オレートなど)など。
    2. 天然殺虫剤…速効性~遅効性。自然界での分解が早く、残効性は低い(例外有り)。動植物に由来する成分を殺虫剤としたもので、毒性も低め(例外有り)。除虫菊抽出物のピレトリンや、タバコ抽出物のニコチン(※毒性強・残効性大)、石油精製物のマシン油などがある。除虫菊、パイベニカなど。
  6. 殺虫剤の中には、「天敵農薬(生物農薬)」や「微生物農薬」という、一風変わったものも存在する。天敵農薬(生物農薬)は、文字通り、害虫の天敵生物を放つもので、広大な農園やビニールハウスなどで用いられるが、一般の家庭園芸ではなじみがない。微生物農薬は、害虫に害を与える微生物そのものや、微生物が作り出す毒素を利用するもので、近年は、園芸店やホームセンターでも普通に見かけるようになった。
  7. 微生物農薬の代表的なものが「BT剤」である。天然の微生物であるバチルス菌の一種(バチルス・チューリンゲンシス)を利用したもので、この菌が作り出すタンパク質の結晶を害虫が摂取することにより効果を現す。なお、生きた菌をそのまま散布すると、その場の生態系に悪影響を及ぼす可能性があるため、市販のBT剤は、散布後に菌が増殖しないよう不活化されているらしい。
  8. BT剤は天敵を殺す心配がなく、害虫に抵抗性が付きにくいという特徴がある。ただし、効果があるのはチョウやガの幼虫くらい(「鱗翅目」に属する虫のみ)で、アブラムシやコナジラミなどには効かない。また、遅効性で、効果が現れるまで数日かかる。
  9. 上記の天然殺虫剤の中に、除虫菊から抽出される天然殺虫成分ピレトリンがあるが、このピレトリンに類似した合成殺虫剤が、上記の「合成ピレスロイド」である。人工的に合成された物質であるが、天然殺虫剤の一種として扱われることがある。
  10. 合成ピレスロイドは、園芸用殺虫剤だけでなく、多くの家庭用殺虫剤(ハエや蚊、ゴキブリなどに使うもの)も、この系統に属する。現在は、除虫菊の供給量が少ないためか、生産コストの問題なのか、おなじみの蚊取り線香も、ピレトリンではなく、合成ピレスロイドが主成分となっている。
  11. 大部分の殺虫剤は、害虫の体に直接かけなければ意味がない。葉の裏側など、薬をかけにくい場所に潜んでいることが多いので注意する。
  12. 園芸用殺虫剤は、ハエやゴキブリなどに使う家庭用殺虫剤とは違い、効果がすぐに現れないので、虫が薬まみれになるほどしつこくかける必要はない。薬まみれになった虫がのたうちまわるのは、気門(体の側面にある呼吸器官)が薬剤でふさがれて呼吸困難になっているためである。虫の体に一通りかかれば十分。
  13. 殺虫剤は、定期的に散布するよりも、日頃から植物の様子に気を配り、害虫を見つけ次第、発生初期のうちに使用するのが理想的である。

殺菌剤

  1. 殺菌剤とは、植物に害をなす糸状菌(カビ)類、細菌類、変形菌(粘菌)類、ウイルスなどの増殖を抑える目的で使用する薬剤である。(ウイルスは菌ではないが、普通は、ウイルス予防剤も殺菌剤の中に含める。)
  2. 殺虫剤と同様、殺菌剤も病原菌に合ったものを使わないと無駄が出る。例えば、糸状菌の薬は、細菌に対して効果が小さいし、糸状菌や細菌の薬は、ウイルスに対して全く効果がない。
  3. 園芸用殺菌剤には、下記のような系統がある。保護殺菌剤は予防薬、浸透性殺菌剤は治療薬といえるが、市販の殺菌剤の多くは、両方の性質を併せ持つ。
    1. 保護殺菌剤…植物体に付いた病原体を殺す、あるいはその活動を阻害する薬剤。発病前~発病初期に効果がある。
      1. 無機殺菌剤…糸状菌用の薬剤。硫黄や銅が持つ殺菌作用を利用した薬剤で、古くからある。イオウ、石灰硫黄合剤、ボルドー液(硫酸銅と石灰乳の混合液)など。
      2. 銅剤(銅殺菌剤)…糸状菌と細菌に効く薬剤。カタツムリ・ナメクジに対して忌避効果がある。無機銅剤と有機銅剤がよく使われる。コサイドボルドー、Zボルドー、オキシンドー、キノンドー、ヨネポンなど。
      3. 有機硫黄剤(有機硫黄殺菌剤)…糸状菌用の薬剤。効果のある病気の範囲が広く、よく使われる。薬害は少なめ。ダイファー、ダイセン、エムダイファー、マンネブダイセン、グリーンダイセンM、ジマンダイセン、ダイセンステンレス、ビスダイセン、サニパーなど。
      4. 有機塩素剤(有機塩素系殺菌剤)…糸状菌用の薬剤。こちらも効果のある病気の範囲が広く、よく使われる。オーソサイド、キャプタン、ダコニール、ユーパレンなど。
      5. 抗ウイルス剤…ウイルス用の薬剤。他の保護殺菌剤と違い、治療効果は全く無く、予防専用。レンテミンなど。
      6. その他…タチガレンなど。
    2. 浸透性殺菌剤(直接殺菌剤)…植物体に侵入した病原体がそれ以上悪さをしないよう、活動・増殖を阻害する薬剤。やや病状が進行してからでも効果がある。散布後に植物内に吸収され、初めて効果を発揮する。サプロール、トップジンM、ベンレート、ミラネシンなど。
      1. 有機リン剤(有機リン系殺菌剤)…糸状菌用の薬剤。比較的新しい時期に登場した。アリエッティ、グランサー、リゾレックスなど。
      2. エルゴステロール生合成阻害剤(EBI剤)…糸状菌用の薬剤。エルゴステロールは、キノコなどの糸状菌類の細胞に含まれる物質。副作用として、植物ホルモンであるジベレリンの生合成まで阻害することがある。サプロール、トリフミン、バイレトン、ラリー、ルビゲンなど。
      3. 抗生物質剤(抗生物質殺菌剤)…細菌用の薬剤。一部、ファイトプラズマ(植物病原微生物=マイコプラズマ様微生物)の病徴を抑える薬剤もある。耐性菌有り。アグリマイシン、アグレプト、ストマイ、ヒトマイシン、カスガマイシン、カスミン、バリダシン、ポリオキシンAL、マイコシールドなど。
      4. ベンゾイミダゾール系殺菌剤…糸状菌用の薬剤。効果のある病気の範囲が広く、よく使われる。耐性菌が多い。トップジンM、ベンレートなど。
      5. ジカルボキシイミド系殺菌剤…糸状菌用の薬剤。主に、菌核病と灰色カビ病に対する薬である。耐性菌有り。スミレックス、ロニラン、ロブラールなど。
      6. カルボキシアミド系殺菌剤…糸状菌用の薬剤。主に、さび病に対する薬である。バシタック、プラントバックスなど。
      7. アシルアラニン系殺菌剤…糸状菌用の薬剤。主に、疫病に対する薬である。サンドファン、リドミルなど。
      8. その他…スターナ、プレビクールN、ベルクートなど。
    3. その他の殺菌剤
      1. 拮抗微生物剤(拮抗菌剤)…病原菌と拮抗する関係にある微生物を植物体に定着させ、病原菌の活動を抑える薬剤。
      2. 消毒用殺菌剤…植物に使うのではなく、土や器具などの消毒用。サンヤード、パンソイル、サニーエクリン、ビストロン10、第三リン酸ソーダ(リン酸三ナトリウム)など。
  4. 上記の通り、細菌用の薬は、銅剤と抗生物質くらいしかない。前者は主に予防用、後者は治療用である。抗生物質のストレプトマイシンは結核の治療薬として有名だが、植物にも使われる。ただ、病原菌に抵抗性が付きやすいため、濫用を避ける。
  5. 現在のところ、ウイルスによる病気は治療薬が存在しないため、感染した植物は隔離または廃棄するしかない。シイタケ菌糸体抽出物を利用した抗ウイルス薬は存在するが、あくまで、CyMV(シンビジウムモザイクウイルス)や、ORSV(オドントグロッサムリングスポットウイルス)に感染するのを予防する薬であって、すでに感染した植物内のウイルス増殖を抑えることはできない。ウイルスは非常に種類が多く、性質も様々なので、薬に期待するのは禁物。
  6. 殺虫剤とは違い、殺菌剤の散布は定期的に行うのが望ましい。また、植物体の一部だけに散布するのではなく、全体にムラなくかける必要がある。(害虫と違って、病原菌は目に見えず、しかも株全体に広がっている可能性が高いため。)
  7. 散布は、2~4回繰り返し行うのがよい。特に、病原菌の活動が活発になる雨の日の前後に集中して行うと、かなり効果的である。ただし、散布の間隔は、最低でも7~15日は空ける。(土壌灌注の間隔は、月に一度が目安。)年間の総使用回数にも制限があるので、よく説明書を読む。
  8. 殺菌剤を使用すると、病原菌の増殖が抑えられ、病気の進行が止まるが、すでに被害を受けた部分(病斑)は、死んだ細胞が復活することもなく、そのまま消えずに残る。見苦しいと思うなら、汚い部分だけをハサミで切り取る。
  9. 殺菌剤の種類によっては、散布後、茎葉に、薬の乾いた跡が残ることがある。汚れているように見えるが、こればかりはどうしようもない。散布跡の残りにくい薬もある(サプロール、ダコニール1000、トップジンM、ミラネシンなど)ので、どうしても気になるなら、そうした薬を選ぶ。跡が残りにくい薬は、その旨が、箱や説明書などに書かれている。

その他の薬剤

  1. 忌避剤…臭いを利用して、特定の害虫・害鳥獣を、植物に近づけないようにする薬剤。
  2. 誘引剤…臭いを利用して、特定の害虫を誘い集める薬剤。集めた害虫を駆除したければ、殺虫剤と併用する。なお、誘引剤と殺虫剤の効能を併せ持つ薬剤もあり、「誘引殺虫剤(誘殺剤)」と呼ばれる。
  3. 殺鼠剤…衛生上問題のある家ネズミや、栽培植物に害を与える野ネズミを駆除するための薬剤。食餌の形態をしており、ネズミが食べることによって効果を現す。種類によっては、猛烈な人畜毒性がある。
  4. 植物生長調整剤…植物の生長を人工的に調節する薬剤。薬剤の種類によって、人間に都合の良い時期に花を咲かせたり、茎が伸びるのを抑えたり、着果を促進したり、ブドウをタネ無しにしたり、という効果がある。詳しくは「開花・伸長調整」を参照。
  5. 除草剤…人間や栽培植物にとって邪魔、あるいは実害のある植物を駆除するための薬剤。中には人畜毒性の強いものもあるが、園芸店やホームセンターなどで売られている商品は比較的低毒性。いろんな植物に効果のある「非選択性除草剤」と、特定の植物だけに効果のある「選択性除草剤」に分かれる。枯らしたい植物の種類や、使用時の生長具合によって効き方が異なるので、適切なものを選ぶ。効果の現れ方によって、以下のように分類される。
    1. 吸収移行型(移行型)…茎葉や根から植物内に吸収され、初めて効果を現すもの。そのため、しぶとい植物にも効く。下記の二種類がある。
      • ホルモン型…植物に生育異常を起こさせて枯らすもの。呼吸を異常に促進したり、光合成を阻害したりする。
      • 非ホルモン型…ホルモン型以外の移行型除草剤。
    2. 接触型…薬剤が付着した部分を枯らすもの。主に、一年生の草本に対して使われる。
  6. 展着剤…別の薬剤(殺菌剤・殺虫剤など)を、植物体にしっかり付着させ、効果を長もちさせる目的で用いる添加物。なお、乳剤と、展着剤添加済の製品には、使う必要がない。

薬剤の使い方

  1. 普通、「薬剤の使い方」といえば、噴霧器での散布を思い浮かべる人が多いと思われる。(スプレー缶での散布も含む。)が、実際の薬剤散布・使用方法は、それ以外にもいろいろある。
    1. 噴霧法(ミスト)…薬剤の原液そのものや、水で希釈した薬液を、噴霧器を用いて霧状にし、植物体に付着させる方法。なお、ここの次の項目で、噴霧法の詳細について述べた。
    2. 散粉法・散粒法…粉状または粒状の薬剤を、人の手、または専用の機械(散粉機・散粉散粒機)を用いて散布する方法。作業は風の無い日を選んで行う。この方法は、他の散布法に比べて、薬剤を吸引したり、周辺環境を汚染する危険が高い(特に粉剤)。
    3. 浸漬法…水で希釈した薬液の中に、球根やタネ・小苗などを浸して消毒する方法。薬剤の希釈濃度や、浸け置きする時間を間違えると、薬害の原因となる。
    4. 粉衣法(塗抹)…粉状の薬剤(水溶剤・水和剤・粉剤など)を、球根やタネ、小苗などに直接まぶして消毒する方法。
    5. 土処理法…土の表面だけに薬剤処理する方法と、土の中まで薬剤を行き渡らせる方法がある。土が湿っていると、効果が早く、均一に現れる。
      1. 混合処理法…使用する薬剤の形状によって呼び方が違う。いずれにせよ、土中でガス化する薬剤を使った場合は、施用後に土の表面をフィルムシートで覆い、ガスが漏れないようにすると効果的。
        • 土壌混和…粉状・粒状の薬剤(水溶剤・水和剤・粉剤・粒剤など)を、土を耕しながら土中に投入・混和し、消毒する方法。ムラ無く均一に混ぜる。
        • 土壌灌注…薬剤の原液そのものか、水で希釈した薬液を、人の手、または専用の機械(灌注機)を用いて土中に注入し、消毒する方法。
      2. 表面処理法(土壌散布)…薬剤の原液そのものか、水で希釈した薬液、あるいは、粉状・粒状の薬剤(水溶剤・水和剤・粉剤・粒剤など)を、植物体ではなく、土の表面だけに散布して消毒する方法。
    6. 塗布法…薬剤の原液そのものか、水で希釈した薬液、あるいは、粉状の薬剤(水溶剤・水和剤・粉剤など)を水で練ったものを、刷毛を使って、発病部分に塗る方法。
    7. くん煙法・くん蒸法…温室やビニールハウスなどの密閉空間で、燻煙剤や燻蒸剤を使用して有効成分を充満させ、その空間内の土壌や作物を消毒する方法。(閉め切った家の中でバルサンを焚くようなもの。)または、土の表面をフィルムシートで覆い、土の中にガス化する薬剤を灌注して消毒する方法。いずれにせよ、薬剤のガスが漏れないよう、細心の注意を払って行う。家庭園芸では、あまりなじみがない。
    8. 水面施用法…水田の水に、粒剤や油剤などの薬剤を投入し、イネの害虫を駆除する方法。家庭園芸では、あまりなじみがない。
  2. 噴霧法に次いでよく行われると思われるのが「土壌散布」である。上の方で述べた「浸透移行性殺虫剤」は、粒状の殺虫剤を直接、土に散布する。散布後に水やりをすると、植物の吸収が速まり、翌日には効果が出始める。使用する薬剤の量については、ラベルや説明書をよく読む。
  3. 植物の植え付け・植え替え時、土に、粒剤や粉剤を混ぜ込むことがあるが、これは「土壌混和」である。根が多量の薬剤に直接触れると、薬害を起こして傷むので、薬剤と根の間に、土が少量挟まるように工夫するか、土全体に薬剤をよく混ぜ込み、土中の薬剤密度を下げるとよい。
  4. 「浸漬」や「粉衣」は、球根植物でよく行われる。掘り上げ直後に行えば、保存中の球根の腐敗を減らせるし、植え付け直前に行うと、生育中の病気・腐敗を予防できる。使用する薬剤の量については、粉衣は何も考える必要が無いが、浸漬は希釈率や浸漬時間を間違えないよう、ラベルや説明書をよく読む。
  5. 薬剤の「塗布」は、主に、樹木の胴枯病などに対して行う。発病部分とその周辺だけに塗ることが大切で、他の健全な部分に付かないようにする。薬剤を水で希釈して塗る場合は、希釈率を間違えないよう注意。
  6. 同じ薬剤ばかり連続して使うことを「連用」という。上の方でも述べたように、同じ薬を連用すると、害虫や病原菌に、その薬に対する抵抗性が付きやすくなる。(抵抗性が付きやすいのは、害虫のアザミウマ、ウンカ、コナジラミ、ダニ類全般、ヨコバイなど。)それを避けるには、同様の効果を持つ二種類以上の薬剤を用意し、交替で散布する。(このとき、同じ系統に属する薬剤を選ばないように注意する。たとえば、有機リン系殺虫剤のオルトランを使った後に、また有機リン系殺虫剤のディプテレックスを使うのではなく、合成ピレスロイド系殺虫剤のアディオンに変えてみる。)とはいえ、広大な畑や農園ならともかく、一般家庭では、抵抗性のことは、あまり心配しなくてもよい。
  7. 一回の薬剤の使用量・希釈率などは、必ず、薬剤ごとの規定を守る。薬剤が嫌いだからといって、量を控えめにしたり、薄めに希釈したものを使用りすると、有効成分が足りず、害虫や病原菌を抑制できない。それだけならまだしも、薄い薬剤に触れた害虫や病原菌の中から、抵抗性個体が現れかねない。
  8. 薬剤の希釈は、目分量ではなく、まず、薬と水の分量をきちんと量ることから始まる。1,000倍液を1リットル作りたい場合は、水1リットルに対し薬剤1mgとする。(つまり「外割り」。)「水は999mlでなければ…」などと考える必要は無い。500倍液なら水1リットルに対して薬剤2mg、2000倍液なら水1リットルに薬剤0.5mgである。
  9. ただし、100倍より濃い薬液を作る場合は「内割り」とする。例えば、100倍液を1リットル作りたければ、水990mlに対し薬剤10mgを混ぜる。20倍液なら、水950mlに対し薬剤50mg、10倍液なら、水900mlに対し薬剤100mgである。
  10. 薬剤を希釈する水は、ゴミや汚れの無い、きれいな水を使う。普通の水道水で十分。ただし、pHは中性~弱酸性でなければならない。アルカリ性の硬水を使うと、薬効が落ちてしまう。
  11. 正しい濃度・分量であっても、葉の一部などに「試しがけ」をしたり、ごく小さな面積だけに使用し、その後数日間様子を見て、薬害の無いことを確認する。薬害が出ると、薬液のかかった部分だけが変色したり、しおれたり、枯れ込んだり、落葉したりする。
  12. 植物によっては、薬液の濃度に関わらず、ある種の薬剤に対して弱い性質を持つものがあるので、試しがけを怠らない。例えば、チューリップやハクサイは銅剤(ボルドー系)に対して弱く、アブラナ科植物やウメ、クリ、ナシ、モモなどは、スミチオン系薬剤がかかると薬害が出やすい。また、シクラメンは殺虫剤のカルホスを嫌い、ナスは殺ダニ剤のケルセンがかかると酷い薬害が現れる。(ただし、ケルセンは登録失効済で、現在は入手不可。)
  13. 真夏の高温期などは、植物の活動も盛んなため、薬剤の吸収が早すぎて、特に薬害が出やすい。また、伸び出たばかりの若芽や幼い小苗なども、組織が軟らかい分、薬剤に弱い。その他、植え替え直後などで植物が調子を崩している時や、強い風や剪定の直後など、植物体に傷が付いている時も、できれば避けたい。(ただし、台風通過後の病気予防散布は除く。)
  14. 鉢植えの場合、植わっている土が乾いている時に薬剤を散布すると、茎葉に薬害が出やすいので、先に水やりをしておく。
  15. いうまでもなく、病人や怪我人、妊婦、体調の万全でない人は、農薬を散布・使用してはいけない。健康な人でも、使用中、身体に異常を感じたら、すぐに作業を中止し、医師の診察を受ける。(その際、薬品の種類が医師にわかるように、薬剤のラベルか箱を持参する。)いくら園芸用農薬の毒性が低いとはいえ、決して侮ってはいけない。
  16. 薬剤には使用期限が定められているが、期限が切れてもしばらくの間は効果がある。保管状況にもよるが、意外と変質はしない。個人的な経験でいうと、期限終了後1~2年くらいなら問題無いようである。ただし、保管の悪い薬剤を散布すると、無用な薬害を起こさせる原因になりかねないため、ほどほどに。
  17. 薬剤は、紫外線や高温にあうと変質しやすいので、密封し、冷暗所に保管する。子供やペットがいじらないよう、保管場所の選定に十分注意する。
  18. 使い切った薬剤の空容器は、数回水洗いし、各自治体ごとのゴミ分別規則に従って処分する。通常は、「不燃ゴミ」の扱いである。

噴霧法

  1. ここから、薬剤の使用方法として最も一般的な「噴霧法」について記す。家庭用の噴霧器には、薬液に圧力をかけて噴射する「畜圧式噴霧器」や、電気仕掛けの「充電式噴霧器」「電池式噴霧器」、細い管を流れる高速気流に薬液を巻き込んで噴射する「ハンドスプレー(ミスト器)」などがある。対象となる植物の数や、散布面積に合わせて、適切な噴霧器を選ぶ。植物の数が少なければ、ハンドスプレーか、小型の畜圧式噴霧器が一つあれば十分。
  2. 噴霧法で使える薬剤の種類は、液剤・水溶剤・水和剤・乳剤・フロアブル剤(ゾル剤)である。大まかな手順は、「薬剤の希釈→噴霧器に充填→散布」となる。対象となる植物が少なければ、エアゾール剤やスプレー剤を買った方が手軽だが、植物が多ければ、自分で薬液を希釈して散布した方が経済的である。
  3. 水和剤は水に溶けにくいので、あらかじめ少量の水で薬剤を練っておき、後から水を足す。また、水和剤は、薬液の完成後も、すぐ沈殿するので、ときどき撹拌しながら散布する。
  4. 上でも少し触れたが、園芸用薬剤の一種に、「展着剤」がある。これは、一緒に散布された薬剤を茎葉にしっかりくっつけ、効果を長もちさせる添加物である。乳剤には最初から含まれるので添加しなくてよいが、水和剤や水溶剤、フロアブル剤では、なるべく加える。(乳剤以外の薬剤にも、一部、展着剤を含むものがあるので、よく確認する。)展着剤の商品名は「カイテン」「グラミンS」「ダイン」などがある。一回の使用量はごく少量でよいが、必ず説明書の説明に従う。
  5. 殺虫剤と殺菌剤の両方を散布したい場合などは、二種類の薬剤を混合して薬液を作れば、散布作業が一回で済む。薬剤混合の際は、一種類ずつ希釈してから混ぜ合わせるのではなく、一種類の薬剤を希釈した液の中に、もう一種類の薬剤を溶かすようにする。(つまり、使用する水の量は、薬剤一種類分だけである。)具体的な例を挙げると、殺虫剤500倍液と殺菌剤1000倍液を1リットル欲しい場合、水1リットルを用意し、殺虫剤2mgと殺菌剤1mgを溶かし込む。なお、溶かす順番は、乳剤など水っぽい薬剤を先に溶かし、水和剤など粉っぽい薬剤を後から加えるのが無難。
  6. 薬剤を混合して散布する場合、薬害に特に注意する。実際に混合する薬剤は、ラベルや説明書をよく読み、混合可能と記載されているものだけにする。石灰硫黄合剤やボルドー液などのアルカリ性薬剤や、銅剤(無機銅・有機銅)などは、他の薬剤と混用できない。
  7. 乳剤の場合、有機溶媒に有効成分を溶かしてあるため、乳剤同士を混用すると、溶媒の濃度が高くなり、葉の表面を溶かすなどの薬害が出やすい。しかも、自動車などの塗装面に付着すると、変色の原因になる。液剤や水溶剤、水和剤、フロアブル剤(ゾル剤)には、そのような危険はない。
  8. 散布する時間帯は、早朝か夕方がよい。暑い日中だと、植物の活動が活発すぎたり、茎葉に付いた薬液が瞬時に乾燥するなどの理由で、薬害が出やすい。(真夏の高温期は非常に危険。)ただし、曇天で涼しければ、日中に行っても大丈夫。なお、風の強い日の散布は、あらぬ方向に薬液が飛び散るので論外。
  9. 散布の前には、帽子、ゴーグル、マスク、ゴム手袋、ゴム長靴を身に付け、長袖のレインコートを着るのが望ましい。ゴーグルが無ければ水中メガネで代用できるし、専用の「園芸用メガネ」も売られている。(普通のメガネは隙間が多いので好ましくない。)マスクは、風邪用のガーゼマスクではなく、専用の「農薬用マスク」か、無ければ花粉用のものを使う。干してある洗濯物などは取り込み、家の窓も閉める。できれば、隣近所にも一声かけておきたい。
  10. 散布の際は、薬液を吸い込んだり、肌に直接触れることのないよう、十分に注意する。少し風のある日は、必ず風上から散布する。
  11. 殺虫剤は害虫の体全体に、殺菌剤は植物全体に、いずれもムラなくかかるよう行う。葉の裏側にも忘れずに。なお、薬害の原因となるため、薬液が滴り落ちるほど多量にかけるのは良くない。
  12. 多くの噴霧器は、先端を調整すれば、薬液の霧の細かさを変えられる。霧を細かくすれほど、ムラなく散布できるが、飛距離が伸びないため、遠くの植物や、高い位置に届きにくい。状況に応じて調整する。
  13. 園芸用に限らず、農薬類は、魚毒性(魚など、水生生物に対する毒性)の強いものがほとんどである。散布する場所の近くで魚や水生生物を飼っている場合は、薬のかからない室内に避難させるか、それが無理なら、ビニールシートで覆うなどし、薬剤が絶対に水に入らないようにしなければならない。ほんのわずかな量が水に入っただけで、池全体の魚が全滅することもあるので、決して侮らない。
  14. 散布が終わったら、身体防護用の手袋やレインコートなどとともに、全身をよく洗い、手洗い・うがい・目の洗浄を忘れない。服も着替え、他の衣類とは別にして洗濯する。
  15. 使用後の噴霧器は、薬液が乾かないうちに、よく水洗いする。容器の中に水を入れた状態で、数回噴霧を行い、中に残った薬液を完全に洗い流す。これを怠ると、噴霧器の先端の穴に薬剤がこびりつき、詰まってしまうことがある。詰まったら針金やブラシなどで取り除くが、ひどい場合は買い換えるしかない。
  16. 噴霧器のパッキンは消耗品である。パッキンが劣化すると、空気がそこから漏れて、薬液の飛距離が落ちたり、薬液が漏れ出して手に付いたりする。定期的に、新品に取り替える習慣を。
  17. 散布後に余った薬液は、長期保存ができないため、土に染み込ませて処分する。農薬類は総じて魚毒性が強いため、まかり間違っても、池や川などに流してはいけない。土に染み込んだ薬液は、短期間の内に、太陽光や土中の微生物によって分解される。ただし、薬剤によっては、何らかの形で土中に長期間残留することがあるので、その土には、食用の作物を植えないのが望ましい。
  18. 散布後、薬液が乾く前に雨が降ると、せっかく散布した薬剤が洗い流されてしまうので、散布前から天気予報に注意しておく。なお、雨が降ってしまっても、散布後一時間くらい経過していれば、全て流れてしまうことはないらしい。
  19. 薬剤を散布中はもちろん、散布終了後も、少なくとも丸一日、子供やペットに近付かせない。いったん薬液が乾くと、茎葉にくっ付いて取れにくくなるので、少しくらい触れても大丈夫だが、できる限り触らせないようにする。
  20. 殺虫・殺菌剤用の噴霧器と、除草剤用の噴霧器は、きちんと区別し、決して共用しない。よく洗ったつもりでも、除草剤の成分が噴霧器内に残り、薬害の原因になることがある。