いろんな植物の育て方や知識をご紹介。

素人園芸解説 -私はこう育てる-

植物の病気

※病名が分からない場合は、下記の分類からどうぞ。なお、例えば「疫病」のように、「茎」「根」「果実」など複数の分類にまたがる病気も数多くあります。

葉に現れるもの
葉、葉柄、葉鞘、結球野菜の結球部分などに発生する病気。
茎や若い枝に現れるもの
茎、つる、茎節、新梢、若枝、バルブなどに発生する病気。
幹や古い枝に現れるもの
幹、古枝、分枝部分、接ぎ木部分などに発生する病気。
地際~地下部・球根に現れるもの
地際部分、根、球根、地下のイモなどに発生する病気。
芽に現れるもの
葉芽、花芽などに発生する病気。
花やつぼみ・花茎に現れるもの
花弁、ガク、花梗、花茎、つぼみ、苞、シースなどに発生する病気。
果実や豆サヤ・穂に現れるもの
果実、果柄、果梗、幼果、豆サヤ、穂などに発生する病気。
株全体に現れるもの
部位を問わず、全身または半身に発生する病気。
芝生に現れるもの
芝生だけに発生する病気。

※病名リストの下方に、このジャンルに関する解説文があります。


※ 病名がある程度分かっている場合は、この五十音順の索引からどうぞ。

※病名リストの下方に、このジャンルに関する解説文があります。

病名リスト

このジャンルについて

概要

  1. 全ての病気を収録するのは無理なので、比較的有名と思われる病気を載せた。ただ、植物の病気は、いい加減な病名が付いていることが多く、全く別の病原体による病気でも、同じ病名だったりして、分類に苦労した。それでも間違いが多いと思われるため、あくまで参考程度に。
  2. 植物の病原体は、糸状菌(主にカビ)、細菌(バクテリア)、ウイルスの三つで大部分を占める。そして、植物の病気の約8割は、糸状菌が原因といわれる。
  3. その他、種類は少ないが、変形菌類や放線菌類、藻類、ファイトプラズマ(植物病原微生物)による病気もある。また、原因不明な病気も存在する。さらに、害虫の被害の痕跡が、病気のような症状を呈することもあって紛らわしい。
  4. 南方熊楠の研究で有名な変形菌類(粘菌類)は、糸状菌に近い仲間らしいが、アメーバのような形状を持ち、自力で移動できる。他の微生物を食べたり、寄り集まって子実体(キノコ)を作って繁殖したりする、奇妙な生物である。
  5. いうまでもないが、植物の病原菌やウイルスが、人間など動物に感染することはない。逆もまたしかり。
  6. 使用できる薬剤は、一般の園芸店で購入できるものを優先して記載し、毒物・劇物に該当するものは除外した。なお、薬剤の適用範囲や登録の有無などは、時代とともに変遷しており、データ更新が追いつかない面がある。そのため、各病気ページには、一部、登録失効農薬や無登録農薬が混じっているので注意。また、予防薬と治療薬の区別はしていない。(多くの薬剤は両方を兼ねているが、例外もある。)薬剤についての基本的な知識は、「薬剤」のページにある。
  7. 糸状菌による病気か、細菌による病気か判別できなければ、とりあえず細菌用の薬剤を使用してみる。細菌用の薬剤は糸状菌にも効くものが多いが、その逆は少ない。
  8. 土壌伝染する病気が発生した土は、太陽熱消毒や焼き土などを行い、しっかり消毒する。(「」のページも参照。)よほどタチの悪い病気でなければ、オーソサイドやタチガレン、ベンレートなどを灌注する、簡易的な殺菌消毒でも効果がある。
  9. 農家では、土壌伝染する病気が発生した土は、クロルピクリンやバスアミドのような劇物を使い、徹底的に消毒する。が、家庭園芸では真似ができない。一応、劇物でない土壌消毒専用薬剤として、NCSやキルパーなどがあるが、おすすめしない。そこまでするくらいなら土を処分した方が賢明である。庭や畑なら、病気の出た部分の土を、深さ1mほど掘り取り、新しい土を投入すればよい。
  10. タチの悪い病気が発生した鉢や支柱などの小道具類は、できれば再利用を諦めるか、そうでなければ数年間放置する。すぐ再利用したければ、石鹸でよく洗って乾かし、殺菌剤や熱湯をたっぷりとかけて消毒する。

日頃の病気予防

  1. 病気になった茎葉や花、果実などは、早めに全て取り除く。株全体に広がってしまった場合は、できれば抜き取り処分する。それらは深さ1m以上の穴を掘って埋めるか、焼却処分しないと、次回の発生源になる。
  2. 植物が濡れると病原菌が繁殖しやすいので、茎葉に必要以上に水をかけたり、雨に当てたりしない。特に、雨に当て放題にすると、土中の病原菌が株元の土と共にはね上がり、茎や葉裏に付着する。地植えの植物は、株元をマルチングするとよい。
  3. 植物に傷を付けると、傷口から病原菌が入る。剪定など、やむを得ないときは、傷口が早く乾くように計らう。傷口に癒合剤を塗るのも良い方法である。茎葉を傷つける強風や害虫にも注意する。
  4. 周囲の雑草を生え放題にすると、通風を悪化させる上、そこから病原菌や害虫が飛んでくる。
  5. 枯れた植物の残骸や落ち葉、終わった花がらなどは、常にきれいに掃除しておく。そうしたゴミを放置して不潔にすると、腐生性の菌類が繁殖し、病気を誘発する。
  6. 池や川の水には、病原菌(特に疫病菌)が潜んでいることがあるので、植物に与えないほうがよい。
  7. 病原菌が株全体に広がっている危険性があるので、病気が疑われる株からタネや子株、子球、挿し穂・接ぎ穂などを採取しない。接ぎ木の台木にも使わない。
  8. 植物を購入する際は、じっくりと観察し、病気の痕跡のあるものを買わない。
  9. 野菜や果樹には、特定の病気・害虫に抵抗性を示す「抵抗性品種」が存在するため、それを栽培することも検討したい。耐病性台木に接がれた「接ぎ木苗」もおすすめ。また、野菜では、タネまきや定植の時期を意図的にずらすことによって、特定の病虫害を減らせることがある。
  10. 健康体が病気に強いのは、植物も動物も同じ。結局のところ、日照、施肥、水やり、通風、温度、土の酸度などを適切に管理し、密植や連作を避け、植物を健康に育てるのが、最も大切な病気予防法である。ただし、植物には免疫機能が無く、一度かかった病気に対して抵抗性を持つことはできない。まるっきり動物と同様に考えてはいけない点に留意しておく。

侵入・伝染経路

  1. 植物の病気にも当然、感染・発病に至るまでの経路がある。主な感染経路には、下記のようなものがある。
    1. 空気伝染…風に乗って空気中に胞子が舞い上がり、別の植物体に感染するもの。胞子で殖える糸状菌に特有の経路である。糸状菌の種類によっては、数千kmも飛ぶらしい。
    2. 水媒伝染…流動水によって病原菌や胞子、菌核などが運ばれ、別の植物に感染するもの。河川や溜め池、用水路の水のほか、雨水の跳ね返りも含む。
    3. 土壌伝染…土中にいた病原菌やウイルスが、新たに植えられた植物に感染するもの。自分の力で感染する場合と、土中の媒介微生物の力を借りて感染する場合がある。以前に病気が出た土の中には、発病株の残滓(枯れた残骸)が残っており、その中に病原体が生存していることが多い。
    4. 汁液伝染…ウイルスやファイトプラズマの主たる経路である。糸状菌や細菌にも、わずかに見られる。罹病した植物から出る汁液には、病原体が多数潜んでいる。
      • 虫媒伝染(昆虫伝染)
        • 吸汁性害虫による伝染…植物の汁液を吸う害虫(アブラムシ、ウンカ、ヨコバイなど)が、罹病した植物の汁液を吸うと、体内に病原体が入る。その虫が別の植物の汁液を吸うと、病原体が注入されて伝染する。
        • それ以外の虫による伝染…ある虫が、何らかの原因で病原菌や胞子、菌核を体に付着させ、そのまま植物に触れると、病気がうつる。
      • 人間による伝染…罹病した植物の剪定などに使った刃物を、消毒せずに別の植物に使い回すと、病気がうつる。刃物を使わず素手で行ったとしても、一株ごとに手を洗わなければ同じ事である。
    5. 種苗伝染…どの病原体にも見られる経路だが、特にウイルスに多い。下記のような経路がある。
      • 挿し木伝染・苗木伝染…もともと罹病している植物から、株分けや挿し木、取り木などで新しい苗を作ると、親の病気をそっくり受け継いだ子苗ができる。
      • 種子伝染…発病株から採られたタネの内部(胚や胚乳の中)、あるいは表皮に、病原体や胞子が潜んでいると、発芽後に発病する。
      • 接ぎ木伝染…接ぎ木に用いる穂木・台木のいずれか一方、あるいは両方が、もともと罹病していた場合、接ぎ木後に発病する。果樹に多い伝染経路で、「高接ぎ病」と呼ばれる。
  2. 植物体に付着した病原体が、実際に植物体の中に侵入・発病するには、下記のような方法がある。
    1. 気孔侵入…葉裏にある気孔から侵入する方法。植物体に元々ある穴を使うため侵入が容易で、この方法を採る病原体は多い。
    2. 傷口侵入…害虫による加害の跡や、人間による剪定傷、風で枝葉が擦れた事による微細な傷なども、病原体の侵入口となる。病原体の侵入経路としては最も一般的。
    3. 細根からの侵入…土の中にある細根は表皮が薄いため、病原体に侵入されやすい。
    4. 柱頭侵入…柱頭とは、雌しべの先端のことである。花粉管を受け入れる都合上、表皮が薄いため、病原体に侵入されやすい。
    5. 皮目からの侵入…皮目(ひもく)とは、樹木の堅い表皮上に存在する通気口である。葉裏にある気孔と同様、植物体に元々ある穴なので、病原体に狙われやすい。
    6. 表皮侵入…植物の表面に付着した病原菌や胞子・菌核が、菌糸を伸ばして表皮を突き破り侵入する。糸状菌に多い方法。

糸状菌による病気

  1. 糸状菌は、多細胞の菌糸から成る微生物で、胞子を作って増殖する。キチン質による強固な細胞壁を持ち、薬剤に強い。(水虫菌がしぶといのもこのため。)大きく分けて、死んだ細胞に寄生し、腐生性の強い「死物寄生菌」、生きた細胞にしか寄生しない「活物寄生菌」、両方に寄生できる菌、の三系統がある。
  2. 糸状菌は、形態・性質などにより、藻菌類、子のう菌類、担子菌類、不完全菌類、などに分類される。藻菌類は、さらに鞭毛菌類、接合菌類、に分かれる。
  3. 糸状菌による病気は、植物の病気の大部分を占めるだけに、その症状もさまざまである。茎葉に病斑を作るものや腐敗させるもの、地際や根を侵して立ち枯れを招くもの、コブ等のできものを作るもの、などがある。薬剤の種類も豊富で、治療できる病気が多い。が、治りにくい病気や不治の病気も、もちろん存在する。また、治療できるといっても、すでに病菌に侵されて死んだ組織が回復することはない。
  4. 大雑把な傾向として、糸状菌による病気は、発病部分に、粉のようなカビや、黒い粒々(菌核=菌糸の塊)を生じることが多い。また、枝葉に生じる病斑(変色部位)の輪郭がぼやけておらず、鮮明であることが多い。
  5. 糸状菌の胞子の一つ一つは、肉眼ではほとんど見えない。が、「菌核」は、時として2mm程度に達することがあり、はっきり見ることができる。
  6. 糸状菌は、酸性の土を好む傾向がある。また、カビなので、高い湿度も好む。
  7. 樹木の中に腐朽菌が入ると、幹や枝の一部が腐ってくる。そのような病気は「材質腐朽病」「ならたけ病」を始め、数多く存在し、その治療法は通常、「腐朽部分を削り取り、患部に殺菌剤を塗布すること」である。が、この「腐朽部分の削り取り」がくせ者で、削り過ぎると、植物本来が持っている防御機能を破壊し、腐朽菌のさらなる侵攻を促してしまう。削り取っても良いのは、材がぼろぼろに腐り、軟らかくなった部分だけにとどめる。それを削り取ると、腐朽菌により黒っぽく変色した、堅い部分が出てくるが、そこには手を付けないのが無難である。健全部分が見えるほど削り取るのは論外。なお、殺菌剤を塗布しても、一度木の中に入り込んだ腐朽菌を殺すことはできない。あくまでも、傷口を外側から保護するための応急処置である。

細菌による病気

  1. 細菌は普通、一個の細胞から成る微生物で、種類によって、球状・楕円状・桿状(かんじょう=細長い柱状)など、さまざまな形状をしている。増殖は分裂による。植物を加害する細菌の多くは桿状細菌で、鞭毛を持っており、水中を泳いで移動し、株にできた傷口や、葉裏の気孔などから植物体に侵入する。中性の土を好む傾向がある。高温多湿が大好き。
  2. 細菌による病気は、一度発生すると対処が難しく、被害の程度によっては諦めた方がよいことも少なくない。薬剤はあるが、過大な期待はしない。日頃からの予防のほうが肝要。
  3. 細菌による病気には、茎葉を枯らし、腐敗させるもの、道管を冒して急な立ち枯れを招くもの、がんしゅ状のできものを作るもの、などがある。大雑把な傾向として、病斑の輪郭がやや不鮮明で、病斑の周辺が黄色く変色することが多い。
  4. 発病部分を切り取って水に浸し、軽く押さえると、切り口から汚白色の汁(菌泥)が出ることがよくある。(特に、立ち枯れ性の病気に多い。)
  5. 薬剤で病気の進行が治まったとしても、植物体の内部に病原菌が残っており、再発することが多い。(特に球根植物やラン。)一度発病した鉢や土も同様なので、処分するか、再利用の際に徹底的に消毒する。
  6. 防除に用いる薬剤は、銅剤(Zボルドー、サンボルドーなど)と、抗生物質(アグリマイシン、マイシンSなど)が一般的。前者は、発病部分の拡大を防止する予防効果に優れ、後者は、発病部分の治療に効果を発揮する。
  7. 植え付け予定の土はもちろん、まく前のタネや、植え付け前の球根も、一度、抗生物質で消毒すると、ある程度予防になるらしい。ただし、耐性菌が出現しやすいため、濫用は控える。
  8. 発病してしまったら、早期に薬剤を散布するが、チューリップやハクサイのように、銅剤に対して薬害の出る植物があるので注意する。また、散布後も効果が認められなければ、すぐ別の薬剤に切り変える。
  9. 余談だが、抗生物質のアグリマイシンやアグレプトは、ブドウの幼果にかけると、種なしブドウにする作用があるらしい。

ウイルス等による病気

  1. ウイルスやウイロイドによる病害は、植物に一度感染すると治療法が無い。伝染力の強いものが多いにも関わらず、その伝染経路(媒介昆虫など)について、まだ解明されていない点があるようで、非常に厄介である。
  2. ウイルスは基本的に、外被タンパク質(カプシド)と核酸から成る、単純な構造をしている。核酸はDNAかRNAのいずれか一方しか持たない。(植物ウイルスの場合は、RNAであることが多いらしい。)他の生物の細胞内に侵入し、その細胞の核酸合成・タンパク質合成機能を利用しなければ増殖できない。(故に、厳密には「生物」ではない。)種類により、形状は、球状・糸状・桿状・棒状とさまざまである。極めて小さく、電子顕微鏡でなければ見ることができない。
  3. ウイロイドは、「ジャガイモやせいも病」の病原体として発見された。性質がウイルスに似ており、種類によっては、ウイルスと同様の病害をもたらす。核酸はRNAのみで、外被タンパク質を持たず、ウイルスよりさらに小さい。なお、動物に対して病原性を持つウイロイドは存在しないらしい。
  4. ウイルスやウイロイドによる症状は、多くの場合、葉や花に淡い斑模様が不規則に入るモザイク症状や、萎縮・変形などの奇形化、小さな褐色の壊疽斑点などを呈する。また、株全体が色褪せて小型化し、著しく生育が阻害されることもある。
  5. ウイルスによる病害は「ウイルス病」、ウイロイドによる病害は「ウイロイド病」と呼ぶが、これ以降、ひっくるめて「ウイルス病」と表記することにする。
  6. ウイルス病かどうかの判別は、意外と難しい。葉や花に怪しい模様が見つかったら、まず、その裏側に、カイガラムシやハダニなどの害虫がいないか探してみる。また、萎縮・変形らしい症状があれば、アザミウマに吸汁されなかったか、ナメクジなどにかじられなかったか、よく考える。(若芽や若葉が虫害にあうと、生長するにつれて、被害部分から萎縮・変形が起きるため。)
  7. 害虫の仕業でなかったとしても、いきなり株を処分するのではなく、とりあえず隔離し、少し様子を見る。なぜなら、ウイルス病によく似た症状は、他の病気や生理障害、遺伝的な性質などによっても引き起こされるからである。(斑点性病害・葉焼け・変異による斑入りなど。)なお、ウイルス病は、根詰まりや肥料不足などで株が弱ると、特有の症状が一気に顕在化する傾向があるので、わざと試してみるのも手。(おすすめはしないが。)
  8. ウイルスや植物の種類によっては、感染してから症状が現れるまで、数年かかることがある。この潜伏期間中は、ウイルスを保毒していても外見上全く分からないので、注意が必要である。
  9. ウイルス病判別法の一つとして、症状が出やすい植物(アカザ、センニチコウ、フダンソウ、ツルナなど)に対し、人為的に、疑わしい株との汁液感染を起こさせる方法(汁液接種法)がある。一応、やり方を簡単に書いておくと、まず疑わしい株の組織の一部をすりつぶし、炭化珪素の粉末(商品名…カーボランダム)をごく少量加えて、判定用の植物の葉全体に、軽くなすり付ける。なすり終わったら、余分な汁液を水で洗い流す。(ここまで、出来る限り素早く行う。)うまくウイルスに感染させられれば、数日で症状が現れる。
  10. ナス科植物の大敵として知られるTMV(タバコモザイクウイルス)は、伝染力が強く、被害葉を乾燥させても不活化しないため、タバコで伝染する。(市販のタバコのTMV保有率は、90%~ほぼ100%らしい。)喫煙したら、そのままの手で植物に触れないようにする。このウイルスの被害にあうのは、ナス科植物だけではないので油断しない。また、TMVはアブラムシによる媒介こそ無いものの、種子伝染・土壌伝染する。
  11. ウイルスは、感染した植物全体に分布するが、例外的に、生長点(生長が盛んな芽や根の先端部分)の一部には存在しないらしい。そこで、その部分の組織だけを切り取って培養すると、親株と同じ性質ながら、ウイルスに感染していない株を得られる。これが「ウイルスフリー」と呼ばれる株である。
  12. ただし、植物によっては、完全にウイルスのいない株にすることはできないらしい。(例、ラン科植物など。)そのため、「ウイルスフリー」には、「ウイルスに感染していても、表面上症状が無く、生育不良になっていない株」も含める。
  13. 植物によっては、最初から高確率でウイルスを保有している。ウンシュウミカンが好例で、日本にある株の多くは、弱毒性のトリステザウイルスに感染しているらしい。このウイルスは、接ぎ木によってのみ伝染する。なお、トリステザウイルスの強毒性タイプは、かなりタチの悪いウイルスらしく、木全体を枯死させたりする。
  14. 抗ウイルス薬がなかなか作られないのは、ウイルス増殖方法の特異性が一因らしい。上記のように、ウイルスは自己増殖機能を持たず、寄生相手の細胞が持つ増殖機能を借りて数を増やす。従って、「ウイルスの増殖を抑える=寄生された細胞ごと潰す」ことになり、寄生されている生物に大きな害が及ぶ。現在のところ、ウイルスだけに効く薬剤は開発されていない。動物ウイルスの場合は、「細胞内で増殖したウイルスが外に放出されるのを阻害する」等の抗ウイルス薬が存在するが、植物ウイルスには無い。
  15. ウイルスではないが、ファイトプラズマによる病害も、ウイルス病に似た症状を示すことが多いため、ここで触れておく。ファイトプラズマとは、かつて「マイコプラズマ様微生物(MLO)」と称した、植物病原微生物である。性質は細菌に近く、テトラサイクリン系抗生物質が効き、自己増殖機能を持つ。しかし、細胞壁を持たない、人工的に培養できない、細菌よりずっと小さい(ウイルスよりは大きい)、などの違いもある。

ウイルス病への対処

  1. ウイルス病には治療薬が無いが、予防薬として、「第三リン酸ソーダ(リン酸3ナトリウム)」と「レンテミン液剤」が存在する。
  2. 第三リン酸ソーダ(リン酸3ナトリウム)は、用具や手指の消毒に使う薬である。商品名は、「ビストロン-5」「ビストロン-10」など。水で希釈し、3~10%液にして用いる。希釈濃度が高すぎると消毒効果が劣るので注意。浸す時間は、ほんの数分で足りるが、万全を期すなら20分ほど浸す。なお、第三リン酸ソーダは強アルカリ性のため、肌の弱い人は、レンテミン液剤で消毒したほうがよい。
  3. レンテミン液剤は、シイタケ菌糸体抽出物を利用した抗ウイルス薬である。が、洋ランのウイルスであるCyMV(シンビジウムモザイクウイルス)と、ORSV(オドントグロッサムリングスポットウイルス)の感染を防ぐための薬であり、それ以外の植物やウイルスに対しては適用が無いので注意する。
  4. ウイルス疑惑の古土を再利用したければ、土中の残滓に残るウイルスはもちろんの事、それを媒介するセンチュウやオルピディウム属菌、ポリミキサ属菌などを確実に死滅させるため、焼き土にするなどして徹底的に消毒する。その土で発生したウイルスの種類が絞り込めている場合は、そのウイルスに感染しない植物を選んで植え付けるのも手。
  5. 疑惑の鉢を再利用したければ、鉢全体を火であぶるか、30分~1時間ほど煮沸する。オーブンを使い、160℃で最低20分加熱してもよい。(いずれも、プラスチック鉢では不可。)第三リン酸ソーダの3~10%液に1時間ほど浸しても消毒できる。その場合、使用前に水でよくすすぐ。
  6. その他、家庭用の塩素系漂白剤を10倍に希釈した液に浸しても消毒できるらしい。が、第三リン酸ソーダに比べると確実性に欠ける。
  7. また、空の鉢を2年以上(できれば5~10年)、戸外で太陽光線と雨に当て放題にしておくと、ウイルスが滅少する。(普通、ウイルスは、他の生物の細胞内に侵入できなければ、じきに活性を失うが、中には数年間生き延びる種類があるらしい。)
  8. 一つの植物に、近縁のウイルスが2種類以上感染すると、互いに干渉しあい、発症しないことがある。そのため、あらかじめ健全な植物に害の少ない弱毒性ウイルスを接種しておくと、その後、近縁の強毒性ウイルスに感染しても、発病を抑えることができる。(ウイルス同士の種類が違いすぎると効果が無いらしい。)植物の予防接種ともいえるこの技術は、野菜類やカンキツ類の一部で、すでに実用化されているという。