マツ
イメージ
原産地
日本・中国・朝鮮半島・鬱陵島・北アメリカ東南部
科
マツ科
高さ
1~40m(種類による)
花期
4~6月
【結実】9~12月
形態
常緑または落葉低木~高木
別名等
ピヌス(属名)/松/パイン
(※各種の和名・異名はページの一番下にまとめた)
日照
戸外の直射日光下(きわめて日光を好むが、寒地性種は、7月中旬~9月上旬のみ30~50%遮光する)。
【補足】エゾマツは少し耐陰性があるが、なるべく日光に当てる。
水やり
土の表面が乾けば与える。
肥料
4月と、9月に、固形肥料の置き肥(基本的にやせ地を好むので、多肥にしない)。
【補足】なるべく有機質の肥料を与える。
植え替え
2月上旬~4月上旬、6月、9月中旬~11月下旬のいずれか(早春が最適期) 。
【カラマツ】11月上旬~3月上旬(厳寒期は避けた方がよい) 。
【補足】ゴヨウマツのみ、9月まで待たず、8月中旬から植え替え可能。植え替え前に根回しをする場合は、11~2月に行っておく。地面への植え付けは、伝統的に「土極め」で行うことが多い。
整姿
基本的に金属を嫌うので、剪定以外の作業は、手で行ったほうがよい。
【芽摘み(みどり摘み)】4月下旬~6月中旬。
地方によってやり方が違うが、基本的に、新芽の先端を1/3~1/2ほど摘み取る(弱った木では、無理に行わない)。芽摘みと同時に、古い下葉も摘み取っておくとよい。
芽によって長さが違うので、長い芽は強めに摘むか、基部から取り除き、短い芽は弱めに摘むか、いっそ摘まずにおく。(長く伸びる芽は間引き、短く形のよい芽だけを伸ばさせるのが、マツ類栽培の基本。)
樹勢の強いクロマツは、強めに摘み取って勢いを抑え、その他のマツ類は、弱い摘み取りにとどめる。
非常に樹勢の強い木などで、新枝を伸ばしたくない場合、発生した芽を全て摘み取ることもできる(木には大きなダメージになるので注意)。
作業後、さらに二度伸びするようなら、8月までに再度、芽を摘めるが、木が弱るので、なるべく行わない。
【古葉取り(葉むしり・もみ上げ)】10月下旬~12月下旬。
夏に伸びた枝が多すぎれば、長く伸びているものを根元から切り取り、残した枝の葉も、1/2~2/3ほど摘み取り、すっきりさせる。同時に、前年に出た古い下葉を全て摘み取る。(枝先7~8cmほどの葉は、取らずに残す。)
【剪定】多くの種類は古葉取り(もみ上げ)と同時期に行うが、カラマツのみ11月~2月が適期。
交差するなどした不要な枝を切る。上部にある枝ほどよく枝透かしを行い、下部の枝に日光が当たるようにする。
マツ類は休眠芽を持たず、葉の無くなった枝は必ず枯れるので、葉を残しながら剪定する。コニファー風の自然な雰囲気にしたければ、放任してもよい。(ただし、樹形を乱す枝だけは早めに切る。)
繁殖
【取り木】3月中旬~4月下旬、5月中旬~6月上旬(「高取り法」で行うとよい)。
【接ぎ木】2月中旬~3月下旬。
【挿し木】3月上旬~5月上旬か、7月上旬~9月下旬(春のほうがよい。発根率が悪いため、多めに挿す)。
【タネまき】採ってすぐにまくか、保存して3月上旬~4月中旬にまく。(一晩水に浸け、沈んだタネだけをまく。タネを乾燥保存すると、発芽に時間がかかることがあるので、採ってすぐにまくほうがよい。)
耐暑性
とても強い 。
【寒地性種】弱い。
耐寒性
強い(-20~-25℃)。
【寒地性種】とても強い(-30℃)。
解説
- ひと口に「マツ」といっても、マツ属(ピヌス属)を始め、カラマツ属(ラリックス属)・トウヒ属(ピセア属)・モミ属(アビエス属)と、複数の属にまたがっている。もっとも、主要な種類の多くはマツ属に属する。
- 盆栽や日本庭園でおなじみ。建築材としても欠かせない、日本人に身近な木である。最近は、昔ながらの樹形にこだわらず、気軽に植えられるようになった。
- 昔からあるアカマツやクロマツ、ゴヨウマツなどが一般的。その他、アカマツの変種で株立ち樹形になるタギョウショウや、北アメリカ原産で、葉が40~60cmと長く、高さ40mにもなるダイオウショウも見かける。
- マツ類は大半が常緑性だが、カラマツのような落葉性のマツもある。ただし、厳密にはマツ属(ピヌス属)の植物ではなく、カラマツ属(ラリックス属)に属する。秋になると見事に黄葉する。暑さに弱く寒地向き。針葉樹でありながら冬に落葉する理由は、「乾いた強い季節風に耐えるため」らしい。
- エゾマツも、マツ属ではなく、トウヒ属(ピセア属)の植物である。名前の通り、北海道~樺太南部に自生する種類で、寒さに強い(-30℃)。真夏の強い日差しを嫌う。
- トドマツも、マツ属ではなくモミ属(アビエス属)の植物で、高山性の種類である。いずれも寒地向き。
- 盆栽の世界では、マツ類は、生産地や木の姿によって、さまざまな品種に分けられている。例えば、アカマツには「蛇の目赤松」、クロマツには「寸梢黒松」「錦松」「三河黒松」、ゴヨウマツには「浅間五葉松」「四国五葉松」「那須五葉松」などがある。
- クロマツは潮風に強く、海岸沿いに植えられることが多い。潮風に煽られながら育つため、独特な樹形になる。
- マツ類は、植物特有の癒合組織である「カルス」が乾燥に弱く、ほとんど発達しない。その代わり、松ヤニを出して自分の傷をふさぐ、という方法を採っている。
- 寒冷地の木は落葉樹が多いが、マツ類は、強い耐寒性を持ちながら、常緑を保つ。(カラマツは例外。)そうすることで、春、早めに光合成を開始することができ、結果、より多くの養分を蓄積できるという。
注意点・病害虫
- 古来より、「二月の捨て松」という言葉がある。これはマツの植え替え適期を現したものとされ、旧暦の2月、すなわち新暦の3月くらいであれば、マツの木をその辺に捨てて置いても勝手に根付く、という意味である。実際、この時期の植え替え失敗率はきわめて低い。
- 「芽摘み」は、出雲地方から広まった、歴史ある整姿法である。作業適期は、種類によって微妙に違う。ゴヨウマツは4月中旬~5月下旬が最適期で、エゾマツは6月下旬まで可能。クロマツやアカマツは、なるべく5月中に済ませる。
- タネを採るには、松ぼっくりが開き切ってしまう前に木から採取する。遅れると、松ぼっくりが開き、中のタネが飛んでいってしまう。タネにはプロペラのような羽が付いており、遠くまで飛ぶことができる。開ききって木から落ちた松ぼっくりには、ほとんどタネは残っていない。
- マツのタネは、真っ暗だと発芽しにくい。好光性種子かどうかは不明。
- 5~7月頃、新梢に白い泡の塊ができ、中に虫が住み着いていることがある。マツアワフキという害虫なので、殺虫剤で駆除しておく。実害は少ないため、放置しても差し支えない。
- こぶ病にかかると、枝の一部がこぶ状にふくらみ、冬にはヤニ、春には黄色い胞子を出す。ナラやクヌギの仲間が近くにあると、それを媒介として多発する。こぶを削り取り、バシタック、リゾレックスなどを散布するが、症状がひどければ、あきらめて枝を切る。
- すす葉枯病になると、新葉が先端から黄色く枯れこみ、その表面に、すす状のカビを生じる。殺菌剤で防除できるが、この病気は弱った木に発症するので、栽培方法を見直す。また、赤斑葉枯病にかかると、秋~翌春にかけて葉先に赤褐色の斑点ができて枯れこむ。この病斑は、健全部との境界が鮮明で、葉の基部は枯れないのが特徴。こちらも殺菌剤散布で防除可能。
- 株が弱ってくると、カミキリムシやキクイムシの被害を受けやすくなる。マツノマダラカミキリにマツノザイセンチュウを媒介されると、夏の終わり頃に葉が茶色く枯れ始め、やがて全体が枯死する。発症してからでは打つ手はなく、被害株は伐採・焼却するしかない。予防薬があるが、どちらかというと山林用で、一般家庭向きではない。
余談
- マツの仲間は、菌類(菌根菌)と共生し、養分をもらっている。そのため、あまり肥料を必要とせず、やせ地でも育つ。というより、やせ地でなければ、立枯病が出たり、他の植物との生存競争に負けてしまったりで、うまく育たない。
- 植え替え時、根に絡みついているカビは、菌根菌の菌糸である。マツが元気なときほど多く発生する。一見、白絹病に似ているので、誤認しないよう注意。もし白絹病なら、葉が枯れ込み、株がひどく弱っているはずである。
- かの有名なマツタケも菌根菌の一種である。マツタケは、アカマツの根に外部から寄生して養分の供給を受ける代わりに、土中から、水や肥料成分を吸収して、マツの根に送っている。また、根に絡みつくことで、その表面を保護する働きもしている。なお、マツの菌根菌としては、マツタケの他に、イグチ類、シメジ類、ショウロ類、ハツタケ類などが挙げられる。
- マツ類の根を加害するツチクラゲというキノコは、焚き火や山火事などで土が高温になると目を覚まし、活動を開始する性質がある。昔から、マツの近くで焚き火をしてはいけない、といわれるのは、このキノコの害を避けるためである。ちなみに、このキノコは食べられない
- 葉をハーブバスに使えるらしいが、そのまま浴槽に入れると刺さるので注意。薬用酒にもできる。なお、ヨーロッパに自生するオウシュウアカマツからは、香料が採れる。
- アカマツやクロマツの松ヤニは、テレビン油やワニスの原料となる。
各種の和名・異名
- タカネゴヨウ/高嶺五葉/アーマンドパイン/デイビッズパイン(いずれもアーマンディー)
- ヤクタネゴヨウ/屋久種子五葉/アマミゴヨウ/奄美五葉(いずれもアーマンディー変種アマミアナ)
- イガゴヨウ(アリスタタ)
- カリブマツ(カリバエア)
- シシマツ/ビッグコーンパイン(いずれもコウルテリ)
- チョウセンゴヨウ/朝鮮五葉/チョウセンマツ/朝鮮松(いずれもコライエンシス)
- ヨレハマツ(コントルタ)
- ヒロヨレハマツ(コントルタ変種ラティフォリア)
- ブラックパイン/ジェフレイパイン(いずれもジェフレイ)
- オウシュウアカマツ/欧州赤松/ヨーロッパアカマツ/スコッツパイン/パインニードル(いずれもシルベストリス)
- ストローブマツ/イースタンホワイトパイン/ウェイマウスパイン(いずれもストロブス)
- ヨーロッパハイマツ/アローラパイン(いずれもセンブラ)
- メキシカンストーンパイン(センブロイデス)
- テーダマツ(タエダ)
- クロマツ/黒松/オマツ/雄松/オトコマツ/男松/ジャパニーズブラックパイン(いずれもツンベルギー)
- ニシキマツ/錦松(ツンベルギー「コルティコサ」)
- アカマツ/赤松/メマツ/雌松/オンナマツ/女松/ジャパニーズレッドパイン(いずれもデンシフロラ)
- ジャノメアカマツ/蛇の目赤松(デンシフロラ「オクルス-ドラコニス」)
- ウツクシマツ/美松(デンシフロラ品種ウンブラクリフェラ)
- タギョウショウ/多行松(デンシフロラ品種ウンブラクリフェラの小型品種)
- ジャノメタギョウショウ/蛇の目多行松(デンシフロラ品種ウンブラクリフェラ「オクルス-ドラコニス」)
- オウシュウクロマツ/欧州黒松/ブラックパイン(いずれもニグラ)
- オーストリアンパイン(ニグラ亜種ニグラ)
- ニグラ変種マリティマ(異名)/コルシカンパイン(いずれもニグラ亜種ラリシオ)
- バージニアパイン(バージニアナ)
- ダイオウショウ/ダイオウマツ/大王松(いずれもパルストリス)
- ゴヨウマツ/五葉松/ヒメコマツ/姫小松/マルミゴヨウ/ジャパニーズホワイトパイン(いずれもパルビフロラ)
- ネギシゴヨウ(パルビフロラ「ブレビフォリア」)
- キタゴヨウマツ/北五葉松(パルビフロラ変種ペンタフィラ)
- バンクスマツ/ジャックパイン(いずれもバンクシアナ)
- オニマツ/クラスターパイン(いずれもピナステル)
- イタリアカサマツ/シルバークレスト(いずれもピネア)
- ハイマツ/這松/ドワーフパイン/ドワーフシベリアンパイン(いずれもプミラ)
- ハクショウ/白松(ブンゲアナ)
- バルカンゴヨウ/マケドニアンパイン(いずれもペウセ)
- レウコデルミス/ヘルドレイチー変種レウコデルミス(いずれも異名)/バルカンシロマツ/ボスニアンパイン(いずれもヘルドレイチー)
- ホルフォードパイン(ホルフォルディアナ)
- ポンデローサマツ/ウェスタンイエローパイン(いずれもポンデロサ)
- ハイマツ/這松/モンタナマツ/ドワーフパイン/マウンテンパイン/スイスマウンテンパイン(いずれもムゴ)
- ビショップパイン(ムリカタ)
- インシグニス(異名)/モンテレーマツ/モンテレーパイン(いずれもラディアタ)
- ミツバマツ/リギダマツ/ノーザンピッチパイン(いずれもリギダ)
- リュウキュウマツ/琉球松/オキナワマツ/沖縄松(いずれもルチュエンシス)
- ヒマラヤマツ(ロンギフォリア)
- チラ/エクセルサ/グリフィシー(いずれも異名)/ヒマラヤゴヨウ/ブータンマツ/ブータンパイン/ヒマラヤンパイン(いずれもワリチアナ)
マツ属(ピヌス属)以外の和名はこちら。
- トドマツ/椴松/アカトドマツ/赤椴松/北海道モミ/サハリンファー(いずれもアビエス・サハリネンシス)
- アオトドマツ/青椴松(いずれもアビエス・サハリネンシス変種メイリアナ)
- チリマツ(アローカリア・アローカナ)
- ブラジルマツ(アローカリア・アングスティフォリア)
- エゾマツ/蝦夷松/クロエゾマツ/黒蝦夷松/クロエゾ(いずれもピセア・エゾエンシス)
- アカエゾマツ/赤蝦夷松/シンコマツ(いずれもピセア・グレーニー)
- グイマツ(ラリックス・グメリニー)
- シコタンマツ/色丹松(ラリックス・グメリニー変種ジャポニカ)
- ラリックス・レプトレピス(異名)/カラマツ/唐松/ラクヨウショウ/落葉松/フジマツ/ニッコウマツ(いずれもラリックス・ケンプフェリ)
- ヨーロッパカラマツ/洋種カラマツ/欧州カラマツ/ユーロピアンラーチ(いずれもラリックス・デシドゥア)
(※データ:大阪市基準)