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素人園芸解説 -私はこう育てる-

キク/ポットマム

イメージ

原産地

中国~朝鮮半島

キク科

高さ

20~150cm(種類による)

花期

【夏ギク】5~7月

【夏秋ギク】8~9月

【秋ギク】10~11月

【寒ギク】12~1月

形態

多年草

別名等

クリサンセムム・モリフォリウム(学名)/デンドランセマ・モリフォリウム/デンドランセマ・グランディフロルム(いずれも異名)/マム/菊/イエギク/家菊/観賞ギク/栽培ギク/ジュカク/インクンシ/ヨワイグサ/フローリスツクリサンセマム


(※改良親になった原種の一部や系統ごとの総称などはページの一番下にまとめた)

日照

戸外の直射日光下(酷暑期は西日を避ける)。

水やり

土の表面が乾けば与える(水切れは厳禁)。

【補足】病気が出やすいので、雨に当てたり、花や葉に水をかけない。水切れすると、下葉が黄ばんだり、花の形がおかしくなったりする。
ガーデンマムやクッションマムのように、こんもりと茂る系統は、雨に当てると形が崩れる。

肥料

3月下旬(挿し芽苗は定植後)~11月下旬に、7~10日に一度の液肥、加えて、3月と、9月に、固形肥料の置き肥。

【補足】生育期間中、一貫して肥料を効かせ、旺盛な生育を促す。夏ギクは、5~6月の肥料要求量が特に多いので注意。開花直前~開花中には施肥をしない。

植え替え

3月か、11月下旬~12月中旬(夏ギクは、9月下旬~10月下旬に行う)。

【補足】1~2年に一度行うが、挿し芽で更新するほうが賢明。
5月までに挿し芽した場合は、鉢上げの後、6月中に一度鉢増しを行い、7月上旬~8月上旬に定植する。(鉢上げは小さめのポットに行い、鉢増しの度に、2~3号ずつ上のサイズに広げていく。)

整姿

茎が広がって不安定になるので、支柱を立てて安定させる。高性種は必ず支柱を立てる。混み合った葉や傷んだ葉などは、病気の原因になるので、こまめに取り除く。
晩秋に、小さな冬至芽を残して地上部が枯れるので、枯れた部分を切り取る。


【春の摘芯~挿し芽】毎年、2月下旬~3月上旬頃に冬至芽を摘芯し、発生した腋芽を、4月下旬~7月中旬に挿し芽して、株を更新する。(挿し芽の時期は、仕立て方や品種によって異なる。)7月上~中旬に挿し芽をすると、秋に、低い草丈で咲く。
摘芯~挿し芽が面倒なら、4月下旬~5月中旬頃に、高さ10cm程度まで切り戻すだけでも何とかなる。


【初夏の摘芯】この摘芯を怠ると茎が長く伸び上がり、秋までに下葉が枯れ落ちて株が老化し、見苦しくなる。(とはいえ、必須の作業ではない。)

一回目…挿し芽で作った苗を鉢上げして一~二週間後、葉2~3枚を残して先端部を摘芯する。

二回目…一回目の摘芯後に発生した腋芽が10~15cmに伸びた頃、それぞれの枝の付け根から2~3節を残して摘芯する。

小~中輪咲きの種類は、8月上旬頃まで、軽い摘芯を数回繰り返し、枝数を増やしておく。
ガーデンマムやクッションマムは、摘芯しなくても分枝するので、形にこだわらなければ摘芯を行う必要はない。
大ギクの「三本仕立て」を作る場合は、三本の側枝を伸ばさせて、支柱と針金で整枝する。


【大ギクの柳芽摘み】8月。

茎の先端に柳の葉のような奇形芽(柳芽)が出ると、つぼみが出なくなるので、見つけ次第摘み取る。


【大ギク・古典ギクの摘蕾】9月上旬~10月上旬。

茎一本ごとに、頂部の真ん中のつぼみ(芯蕾)1個と、その腋から出ているつぼみ(側蕾)1~2個くらいに制限する。残す側蕾は、芯蕾より2~3個下にあるものを選ぶ。
10月頃、花弁の色が見え始めたら芯蕾だけを残し、側蕾を全て切り取る。


【大ギクの輪台取り付け】10月上~中旬。

固まっていた花弁がほぐれ、数枚の花弁が開いてきたら、早めに輪台を取り付ける。

繁殖

【挿し芽】4月下旬~7月中旬(夏に挿す場合は、5月に一度挿し芽をして作った若苗から挿し穂をとる)。

【株分け】11月下旬~12月中旬(冬至芽を切り分ける)。

【タネまき】3月下旬~5月下旬か、9月下旬~10月中旬。(春のほうがよい。普通は、春まきすると開花は翌年の秋、秋まきすると翌々年の秋になる。)

耐暑性

強い。

【クッションマム】やや弱く、蒸れに注意。

耐寒性

わりと強い(-10℃)。

解説

  1. 日本の秋の風物詩である。クリサンセムム属またはデンドランセマ属に分類される。キクの仲間は、大きく分けて、観賞用の「栽培ギク(鑑賞ギク)」と、野生種の「野ギク」がある。ここでは、前者の「栽培ギク」について取り上げてみた。
  2. 栽培ギクは、約1500年前に中国で誕生し、奈良時代末期に日本に渡来したとされる。最初の個体は、チョウセンノギクとハイシマカンギクの交雑系統であったらしい。現在ある品種は、さらに多くの原種が関わっており、株姿・花型・花色・性質等、きわめて変化に富む。
  3. 日本における栽培ギクは、さらに、「和ギク」と「洋ギク」に分かれる。和ギクは、江戸時代に確立された日本独特の分野で、菊人形や菊花展ではおなじみだが、鉢増し・増し土を繰り返したり、針金で枝を誘引するなど、はっきりいってマニア向けなので、詳細については触れない。洋ギクは、「ポットマム」の名で知られ、鉢花として広く出回っているので、このページでは、こちらを念頭に置く。
  4. 洋ギクは、主に欧米で品種改良されたキクである。花の大きさは小~中輪だが、花色・花型ともに大変豊富。性質は丈夫で、風雨に強い。鉢植えでよく出回るため、「ポットマム」と総称される。
  5. ポットマムの系統には、下記のようなものがある。
    • スプレーギク…多数の花を、茎の先端に房状に付ける。切り花でおなじみ。
    • デルフィマム…スプレーギクの一種。デルフィニウムのように、長く穂状に花を付ける。
    • スプーン(風車)…一重咲きで、花弁の一枚一枚が匙型をしている。
    • ポンポン…球状の八重咲き花を咲かせる。
    • クッションマム…摘芯を繰り返さなくても、株全体がこんもりと形よく茂る。種類によっては、春まき一年草扱いされる。
    • ガーデンマム…クッションマムとほぼ同じだが、きわめて風雨に強く、花壇向き。
    この他に、「ヨダーマム」というものがあるが、これは、アメリカのヨダー社が育成した園芸品種群のことである。
  6. 栽培ギクは、開花時期によって、「夏ギク」「夏秋ギク」「秋ギク」「寒ギク」に分かれる。このうち、最も一般的なのは秋ギクである。特に、洋ギクは、大部分の品種が秋ギクである。そのため、秋の花というイメージが強い。ただし、夏ギクの早生種は5月下旬頃から咲き始める。また、小ギクには四季咲き性の品種もある。
  7. 野ギクの仲間(キク科キク属)には、イソギク、イワギク、オキノアブラギク、キクタニギク、コハマギク、シオギク、シマカンギク、ナカガワノギク、ノジギク、ピレオギク、リュウノウギクなどがある。これらは秋ギクと同じ扱い方でよいが、野草なので、肥料はやや少なめに。海辺に自生し、潮風に強い種類が多い。

和ギクについて

  1. いちおう、和ギクについても少し書く。主に下記の三系統に分かれており、それぞれ、昔から決まっている独特な仕立て方がある。
    • 大ギク…花径が18cm以上になる大輪ギク。花型によって、下記の系統に分けられる。
      • 厚物
        • 厚物…大ギクの代表種。多数の細長い花弁が重なり、全体が、丸く盛り上がるような形に咲く。主な仕立て方は、「三本仕立て」「七本仕立て」「千輪仕立て」「だるま作り」「福助作り」など。
        • 厚走り…厚物によく似るが、花の下部の花弁(「走り弁」という)が長く伸び、垂れ下がる。主な仕立て方は、「三本仕立て」「七本仕立て」「だるま作り」「福助作り」など。
        • 奥州ギク…花弁が大きく巻き上がり、花全体が、握り拳を思わせる独特な形状になる。やや性質が弱い。主な仕立て方は、「一本仕立て」「三本仕立て」など。
      • 管物…花弁の一枚一枚が、ごく細い管状になっている。花型は、やや平らな傘型。花弁の太さによって、「太管(ふとくだ)」「間管(あいくだ)」「細管(ほそくだ)」「針管(はりくだ)」に分かれる。主な仕立て方は、「三本仕立て」「七本仕立て」「だるま作り」「福助作り」など。
      • 広物
        • 一文字…「菊の御紋」を思わせる、大きな一重の花を咲かせる。主な仕立て方は、「一本仕立て」「三本仕立て」「だるま作り」「福助作り」など。
        • 美濃ギク…幅広の花弁が立ち上がり、ハスやスイレンを思わせる形に開く。主な仕立て方は、「一本仕立て」など。
    • 中ギク…中輪ギク。切り花で最も一般的なキク。
      • 古典ギク(地方ギク)
        • 伊勢ギク…嵯峨ギクの変種。嵯峨ギクに似るが、花弁が優雅に垂れ下がる。主な仕立て方は、「七本仕立て」「箒作り」など。「伊勢三花(キク、ナデシコ、ハナショウブ)」の一つ。大輪の系統もあり、特に「松坂糸ギク」と呼ばれる。
        • 江戸ギク…細い花弁が巻き上がり、花の中心部を覆い隠すような形に咲く。性質が弱い。主な仕立て方は、「三本仕立て」「五本仕立て」「七本仕立て」「多輪仕立て」など。
        • 嵯峨ギク…糸のように細い花弁が立ち上がる。主な仕立て方は、「箒作り」など。
        • 肥後ギク…管咲きや匙弁咲き、平弁咲きなど、花型が変化に富む。主な仕立て方は、「五行作り」「箒作り」など。「肥後六花(キク、アサガオ、サザンカ、シャクヤク、ツバキ、ハナショウブ)」の一つ。
        • 丁子ギク…地方名を冠さないが、関西のキクとされる。花の中心の花芯部が丸く盛り上がるようにして咲く。
    • 小ギク…小輪のキクの総称。こちらも切り花の生産量が多い。一重~八重咲き、管咲き、丁字咲きなど、花型が豊富。主な仕立て方は、「木立作り」「懸崖仕立て」「玉作り」「盆栽作り」など。
  2. 和ギクは、支柱や輪台(大輪ギクの花が重みで崩れないように、花のすぐ下に取り付ける台)が必要だったり、風雨を嫌うため地植えに適さない品種が多いなど、洋ギクに比べて少々デリケートである。ただ、菊花展に出るような完璧な花を求めるのでなければ、栽培自体は容易。(ただし性質の弱い品種もあるので、購入前に調べる必要がある。)
  3. 大ギクの場合、品種によっては、初秋頃に、「柳芽」が出ることがある。柳芽とは、ヤナギの葉に似た奇形葉が付き、健全なつぼみの出ない、厄介な芽である。生理的な現象で、病気ではないが、放置しても良い花は咲かないので、見つけ次第、正常な葉のある部分まで切り戻し、脇芽を出させる。
  4. 和ギクの中でも、小ギクだけは、洋ギクと同じ感覚で気軽に育てられ、花壇材料にも適する。スタンダード仕立てにしても面白い。また、近年は、中ギクの一種である嵯峨ギクが、その独特な花型を生かして、洒落た鉢物として仕立てられ、人気を博している。

食用ギクについて

  1. キクは本来、薬用植物として導入された。「食用ギク」の存在は、その名残といえる。
  2. 一般的な「食用ギク」は、苦みが少なく、食べやすい。食用ギクの育て方は、普通のキクと同じ。やや冷涼な気候を好むため、東北・北陸・北関東に生産地が多い。(とはいえ、暖地でもよく育つ。霜には弱い。)主な品種に、黄色い花の「阿房宮」「月山」「唐松」、紅紫色花の「延命薬(=もってのほか)」、白花の「高砂」などがある。多くは秋ギクだが、「唐松」のような夏ギクもある。
  3. 「延命薬」は、山形県庄内地方が主産地で、「もってのほか」という名で知られる。「延命菊」「嫁顔」とも呼ばれる。また、新潟では「おもいのほか」「かきのもと」とも呼ぶ。なお、花期が早く、9月下旬から咲く「早生もってのほか」は、「早生もって」「にせもって」「にせかきのもと」とも呼ばれる。
  4. ちなみに、「阿房宮」は青森県南部、「湯沢ギク」は秋田県湯沢市周辺の地方野菜である。
  5. 刺身のつまに使われる小さな黄色いキクは、「ツマギク」という種類である。ツマギクは、「食用ギク」の一種ではあるが、苦みが強い。
  6. 食用ギクは、やや病虫害にあいやすいが、農薬使用は避けたい。日照・水・施肥の加減を適切に行い、健全に育てていれば、そう悩まされることはない。アブラムシが付いたら水で洗い流すなどして対処する。秋に花が咲いたら収穫し、花弁だけを手でむしり取って利用する。花の基部は苦いので取り除く。さっとゆでて乾燥させておけば、保存がきく。

注意点・病害虫

  1. 「ガーデンマム」のように、地植えでの観賞に適する系統もあるが、できれば、最初は鉢植えで育てて、ある程度形ができてから庭に下ろしたほうが、病気などの危険が少なくてすむ。
  2. 鉢植えのポットマムは、購入初年度は、矮化剤で草丈を低く抑えてあるため、翌年からは、かなり大きく育つ。
  3. キクの根は空気を好み、過湿にとても弱いため、水はけに注意する。キク専用土を使うと楽。
  4. 根が弱りやすく、春に新根が伸びても、開花する頃には、十分な活動ができなくなっており、下葉から枯れ上がる。(根の活動期間は150日程度が限界で、それを過ぎると機能が落ちるらしい。)そのような老化状態では、よい花が咲かないため、毎年挿し芽をして株を更新し、若い根が働いている状態で開花させるようにする。
  5. とはいえ、面倒なら、必ずしも挿し芽更新をする必要はない。小ギクやポットトマムなど、中~小輪のキクなら、放任状態でもそれなりに咲くものである。下葉枯れが気になるのなら、株元に、草丈の低い別の草花を補植すれば良い。
  6. 秋ギクを7月に挿すと、低い草丈で開花させられるが、親株が老化していると、よい挿し穂がとれない。そのため、5月に一度挿し芽をし、親株を若返らせておくと、よい挿し穂がとれる。(つまり、一年に二回、挿し芽で更新する。)
  7. キクは、ヨモギに接ぎ木できる。(作業適期は晩春~初夏。6月中には済ませる。)一本のヨモギに多数の品種を接げば、にぎやかな大株が作れる。
  8. 花後、そのままにしておくと、タネが採れる。タネから育てると開花がかなり先になるが、早生系の品種なら、春早くにまけば、その年の秋に開花する。なお、自家結実しない性質なので、自分でタネを採るには二品種以上用意した方がよい。
  9. 短日植物として、あまりにも有名。夜、街灯などが当たるところで育てない。
  10. かなり病虫害にあうので、薬剤散布が欠かせない。白さび病にかかると、葉の裏側に白いイボができ、表側に黄色い病斑が目立つ。サプロール、ストロビー、ピリカットなどを散布して防除する。
  11. 花の中心部が黒褐色になって腐り、花が奇形化するのは、花腐病である。また、葉が縁から黒褐色になって枯れこみ、萎縮・変形するのは、葉腐病の被害である。いずれも同じ病原菌なので、エムダイファー、トップジンMなどを散布する。
  12. ウイルス病にかかると、花や葉に淡い斑紋が入ったり、茎葉が萎縮・変形したりするので処分する。しかし、キクの場合、キクモンサビダニという害虫の被害を受けたときも、同様のモザイク症状が出る。(「紋々病」と呼ばれる。)こちらは病気ではないので、春以降、定期的に殺ダニ剤を散布して防ぐ。
  13. 特に被害の多いアブラムシには、オルトランを散布して予防する。ハモグリバエは、葉の内部にいるうちに圧死させる。ハダニやヨトウムシにも注意。

余談

  1. 切り花において、日本一の消費量を誇る。昔から仏花の印象が強いが、近年は品種改良が一気に進み、洋風の華やかな花・可愛らしい花が増えた。非常に水あげ・花もちがよく、ただ茎を折って水に挿すだけでも、よく水をあげる。室内の装飾として積極的に取り入れたい花である。
  2. 厳密にはキクの仲間ではないが、宿根アスター(キク科シオン属)や、カリメリス(キク科ヨメナ属)の仲間も、野ギクの中に含めることがある。

各種の和名・異名

栽培ギクの親になった原種の一部はこちら。

  1. デンドランセマ・インディクム(異名)/シマカンギク/島寒菊(いずれもインディクム)
  2. ハイシマカンギク/這島寒菊(インディクム変種プロクンベンス)
  3. デンドランセマ・オルナツム(異名)/サツマノギク/薩摩野菊(いずれもオルナツム)
  4. チョウセンノギク/朝鮮野菊(いずれもザワドスキー変種ラティロブム)
  5. デンドランセマ・オクシデンタリ-ジャポネンセ(異名)/ノジギク/野路菊(いずれもジャポネンセ)

系統ごとの総称・俗称はこちら。

  1. ボサギク(ガーデンマム)
  2. 枝咲きキク/スプレーマム(いずれもスプレーギク)
  3. 掴み菊/大掴み(いずれも奥州ギク)
  4. 御紋章菊/広熨斗(いずれも一文字ギク)
  5. 中菊/正菊/芸菊/抱え菊/狂い菊(いずれも江戸ギク)
  6. エディブルクリサンセマム(食用ギク)
  7. 糸菊(管物系品種の総称)

(※データ:大阪市基準)