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素人園芸解説 -私はこう育てる-

パフィオペディラム(緑葉系)

イメージ

原産地

東南アジア・インド北部~中国南部・ヒマラヤ・フィリピン・ニューギニア・ブーゲンビル島

ラン科

高さ

8~60cm

花期

【冬~春咲き種】12~5月

【夏咲き種】6~7月

形態

多年草、地生、単茎性

別名等

パフィオペディルム/トキワラン/シップ/パフィオ/レディースリッパ/レディーズスリッパ/スリッパオーキッド


アルメニアカム/杏黄兜蘭(アルメニアクム)
マーキアヌム(ティグリヌム)
麻栗坡兜蘭(マリポエンセ)
ミクランサム/硬葉兜蘭(ミクランツム)

日照

4月中旬~10月下旬の生育期は、戸外で10~30%遮光(7月上旬~9月上旬は50%遮光)。
越冬中は、室内で0~10%遮光。

水やり

生育期は、用土の表面が乾けば与える(水切れは厳禁)。越冬中は、ごく控えめに。

【補足】葉の合わせ目や、花の唇弁の中に水をためない。貯水機能を持たないので、水切れに弱い(葉が肉厚の種類を除く)。

肥料

4月下旬~7月下旬と、9月上旬~10月中旬に、10~14日に一度、1500~2000倍の液肥、加えて、5月に、固形肥料の置き肥。

【補足】根が弱いので、多肥は禁物。冬~春咲き種は8月以降、窒素(N)を含まない肥料に切り替える。開花中は施肥を停止する。

植え替え

【冬~春咲き種】4月中旬~5月上旬。

【夏咲き種】花後すぐ~9月下旬(酷暑期は避けたほうがよい)。


【補足】2年に一度行う。根にびっしりと生えている根毛を傷めない。

整姿

花茎が伸びてきたら、早めに支柱を立てて真っ直ぐにしないと、花が変な方向を向いて咲くことがある。花が終わったら、花茎を根元から切る。

繁殖

【株分け】植え替えと同時期。

耐暑性

わりと強いが、できる限り涼しく過ごさせる。

耐寒性

5℃近くまで耐えるが、最低10℃を保つ。

【多花性系・斑入り葉系】種類によるが、最低13℃あると安心。

解説

  1. 熱狂的な愛好家の多いランである。渋い花色が多く、花型も独特。近年は交配が進み、明るく華やいだ花色の品種が増えている。
  2. パフィオペディラム属は非常に種類が多く、形態・性質によって、さらに6つの亜属に分かれる。
    • パフィオペディラム亜属…葉に斑紋がない。一茎一花。2n=26・30。主な原種は、インシグネ、エクスル、グラトリックシアヌム、スピセリアヌム、ヒルスティッシムム、ビロスムなど。
    • ポリアンサ亜属…葉に斑紋がなく、やや肉厚。一茎多花。花は一斉に開く。種類によっては、唇弁の縁が内側へ巻く。2n=26。主な原種は、サンデリアヌム、ストネイ、ハイナルディアヌム、パリシー、フィリピネンセ、プラエスタンス、ロウイー、ロスチャイルディアヌムなど。
    • コクロペタラム亜属…葉に淡い斑紋がある。一茎多花。花は一つずつ順番に開く。2n=30~36。主な原種は、グラウコフィルム、チャンバーライニアヌム、ビクトリアレギネ、プリムリヌム、リーミアヌムなど。
    • シグマトペタラム亜属…葉に斑紋がある。一茎一花だが、種類によっては数花付く。2n=28~42。主な原種は、アーバニアヌム、アーガス、アプレトニアヌム、カーティシー(スーパービエンス)、カロスム、シリオラレ、スクハクリイ(スカクリイ)、トンスム、バルバツム、フーケラエ、プルプラツム、ベヌスツム、ローレンセアヌム、ワーディーなど。
    • パルビセパラム亜属…葉に斑紋があり、やや硬い。一茎一花。花弁が軟らかく、唇弁の縁が内側へ巻く。2n=26。主な原種は、アルメニアクム、デレナティー、マリポエンセ、ミクランツムなど。
    • ブラキペタラム亜属…葉に斑紋があり、やや肉厚。一茎一花だが、数花付くこともある。唇弁の縁が内側に巻く。2n=26。主な原種は、コンコロール、ニベウム、ベラチュルムなど。
  3. 園芸上は、この六つの亜属を、三系統に分類して扱う。
    • 緑葉系…パフィオペディラム亜属。交配種に、「ウィンストン・チャーチル」「シャーマイン」「スイート・レモン」「ロビン・フッド」などがある。
    • 多花性系…コクロペタラム亜属、ポリアンサ亜属。交配種に、アンドロニクス、セント・スイシン、トランス・バールなどがある。
    • 斑入り葉系
      • 斑入り薄葉系…シグマトペタラム亜属。交配種に、オニキス、ゴウェリアヌム、モーディアエなどがある。
      • 斑入り厚葉系…パルビセパラム亜属、ブラキペタラム亜属。交配種に、ディパール、ジョイス・ハセガワなどがある。
  4. この三系統のうち、最も育てやすいのは、「緑葉系」である。葉が緑一色で、花も一花茎に一輪しか咲かず、はっきりいって地味だが、比較的寒さに強く、温室がなくても栽培可能。暑さにも耐える。このページでは、この緑葉系を中心にして解説している。
  5. 多花性系は、花がないときは、緑葉系に似た姿をしている。種類によっては、緑色の葉に、淡い斑模様が入る。一本の花茎に多数の花を咲かせて見応えがあるが、寒さに弱い。
  6. 斑入り葉系は、葉に鮮明な斑が入る、やや肉厚の葉と、他系統とは趣を異にする独特な花型が印象的。過湿や多肥に弱く、少々気難しい。暑さに弱い種類もある。
  7. なお、原種のアルメニアクムやミクランツムは、例外的に耐寒性が強く、一時的なら5℃を下回っても耐える。この二種類は比較的栽培しやすいが、夏を涼しく過ごさせる工夫を怠らない。
  8. この仲間の開花期は、種類によって、冬~春咲きと、夏咲きがある。市販されている株の多くは冬~春咲き種である。夏咲き種より育てやすい。
  9. 多くの種類は地生種だが、まれに、着生種もあるらしい。

注意点・病害虫

  1. 基本的に、根の乾燥を嫌うので、素焼き鉢に植えないほうがよい。一般的には、プラスチック鉢に植えることが多い。植え込み材料は、水ゴケかバークなどが適する。ただし、ブラキペタラム亜属は、石灰岩地帯に自生するので、軽石を主体とした洋蘭専用土などを用い、やや乾き気味に管理する。
  2. 石灰岩地帯に産し、「好石灰植物」と呼ばれる種類は、植え込み材料に石灰を振りかけておくと生育がよいといわれる。5号鉢に小さじ1(すり切り)が目安。肥料ではないので、生育期の始めに一度与えれば足りる。
  3. 種類によっては、毎年ではなく、数年に一度の開花となるので、気長に栽培する。
  4. 葉の合わせ目に水がたまると、そこから軟腐病が発生しやすい。発生に気付いたら、患部をよく乾かし、銅剤を散布する。治癒しにくく、枯死につながることが多いので、最初から予防に徹する。この仲間は高い湿度を好むにも関わらず、軟腐病にかかりすやいので、特に通風に気を配る必要がある。
  5. ランの仲間としては、ウイルス病にかかりにくい。ただし、絶対にかからない、というわけではない模様。

余談

  1. ラン科植物の特徴の一つに、雌しべと雄しべが合着した「ずい柱」の存在があるが、パフィオペディラム属の仲間は、このずい柱を持たない。
  2. パフィオペディラムは、メリクロン(組織培養)によるクローン増殖技術が確立されていないらしい。そのため、主に、タネまきか株分けで繁殖する。そのせいか、値段が若干高め。
  3. 品種がかなり多く、未登録の名無しのまま売り出されている株もある。そのような株は、ラベルに、両親の名前だけが書かれている。
  4. 交配種のうち、原種同士の交配で生まれたものを、特に、「プライマリー交配種」と呼ぶらしい。
  5. 花もちが非常によく、最低でも1ヵ月は咲いている。香りもないので、切り花に最適。
  6. この仲間は昔、シプリペディウム属(アツモリソウ属)に分類されていたらしい。
  7. 近縁属のフラグミペディウムは、中南米に自生する。株姿や性質が、パフィオペディラムとよく似ているが、暑さに弱く、やたらと水を欲しがるので、少々やりにくい。鮮やかな朱赤の花を咲かせるベッセアエは、この属の代表種だが、耐暑性が全く無い。

(※データ:大阪市基準)