植物の害虫:虫コブを作る虫
※ここでは基本的な事だけ記しています。種類ごとの、より詳細な解説・対処方法を見るには、このページの下方にある「主な種類」からどうぞ。
「虫コブ」とは、「害虫の吸汁活動が刺激となり、葉や茎、根などの組織が異常に肥大してできたコブ状の物体」のことで、別名「虫えい」「ゴール」ともいう。虫コブを作らせた害虫は、そのコブの中に潜む。
虫コブを作る害虫は、アブラムシ、キジラミ、ダニ、ハエ、ハチの仲間が多くを占めるため、ここで取り扱っている。それ以外には、カイガラムシ、グンバイムシ、コナジラミ、ゾウムシ、ハナノミの仲間に、少数ながら存在するらしい。
虫コブの大きさや形状、色などは、虫の種類によってさまざま。
この仲間は、研究が進んでいない面があるらしく、分類や命名の仕方が、やや怪しい。従って、ここの解説にも、存在しない種類や異名同種などが混じっている可能性が高いのであしからず。
なお、「茎葉の一部を著しく変形させるアブラムシ」や、「茎の一部を異常肥大させるシンクイムシ」、「根にコブを作るセンチュウ類」などという害虫も存在するが、それらは「虫コブを作る虫」としては扱っていない。
(※このページの一番下に、虫コブについての余談を少し記しておいた。)
発生時期
3~12月
被害箇所
葉、葉柄、枝、茎、芽、花、つぼみ、果実、根など。
形態など
コブの中で暮らす性質上、ごく小さな虫が多い。比較的大きなハエやハチの幼虫でも、せいぜい1~3mmである。アブラムシやキジラミ類も同様。フシダニ類に至っては、体長0.1~0.3mmと小さすぎて、肉眼ではほとんど見えない。体色も、淡緑色や淡黄色、黄褐色など、淡色系が多い。
ハエやハチの幼虫は脚が無く、ウジ虫そのものの姿をしている。また、キジラミ類の終齢幼虫は、虫コブから出て、葉裏に固着する性質がある。
基本的に年一回の発生である。
主な被害
葉や枝、芽などに侵入し、吸汁する。被害部分には、淡黄色~黄緑色、黄白色、赤褐色などをした虫コブが形成される。虫コブの形は、球形やイボ状、袋状、棒状、不定形などさまざま。表面が毛状突起や微小なトゲで覆われることもよくある。
虫コブが茎の先端や芽などに生じた場合、生育・伸長が止まり、株が弱る原因になる。
フシダニ類の場合、被害部分にフェルト状の毛羽を生じることがある。また、ウイルス病を媒介する種類もある。
対策
見つけ次第、虫コブのある部分を除去する。
【薬剤】【散布・土壌混和】Mr.ジョーカー、アークリン、アースガーデンC、アースガーデンD、アースガーデンW、アーデント、アーリーセーフ、アクタラ、アクテリック、アタックワンAL、アディオン、アドマイヤー1、アファーム、アファームエクセラ、あめんこ、アルバリン、アントム、ウララDF、園芸用キンチョールE、エンセダン、オルチオン、オルトラン、オルトランA、オルトランC、オルトランDX、オルトランMP、オレート、オンコル、ガーデンアースB、ガーデンガードAL、ガーデントップ、ガードベイトA、カウンター、カスケード、カダンA、カダンD、カダンV2、カダンセーフ、カルホス、キックバールAL、ケムシカダンA、コルト、コロマイト、サイアノックス、サニーフィールド、サンクリスタル、サンヨールAL、ジェイエース、ジェネレート、スケルサイドA、スターガード、スピノエース、スミソン、スミチオン、スミナイス、スミフェート、ダブルアタックAL、ダントツ、チェス、ディアナSC、ディプテレックス、テガールAL、デミリン、テルスター、トクチオン、トレボン、粘着くん、パイベニカ、ブルースカイAL、ベジタメートAL、ベストガード、ベニカ、ベニカD、ベニカDX、ベニカX、ベニカグリーンV、ベニカマイルド、マッチ、マラソン、ムシキントール、ムシラップ、モスピラン、モスピランワン、リーズン、レルダンなど。
【フシダニ類の場合】【散布】アプロードエース、イオウ、エムダイファー、オサダン、カーラ、カスケード、カネマイト、クムラス、グリーンダイセンM、グリーンペンコゼブ、コロナ、サルファー、ジマンダイセン、ダニカット、ダニゲッター、ダニ太郎、ダニトロン、テデオン、バロック、ビスダイセン、ペンコゼブ、マイトクリーン、マイトコーネ、ユニフローサルファー、ラビライト、レターデンが有効。
(一部に殺菌剤が混じっているが、ダニの仲間には、殺菌剤が効く種類が存在する。)
【注意点】早春または秋の、虫コブができる前に散布しないと、効果が薄い。
ただし、虫コブは外見上、非常に目立つため、鳥や寄生バチなどの天敵に襲われやすい。よほどのことがない限り、放置しても差し支えない。
予防策
周辺の雑草を除去する。通風を改善する。十分な日照を確保する。窒素肥料を控える。黄色に集まるので、黄色粘着トラップを吊るす。
天敵が多いので、それらを殺すような強い薬剤を使わない。樹皮の隙間などで越冬するので、粗皮を削り落としておく。
銀色に光るものを忌避するので、銀色のポリフィルムなどでマルチングする。株とその周囲を、近紫外線反射フィルムで覆う。
【薬剤】可能なら、冬季に、石灰硫黄合剤、マシン油乳剤を散布。
主な被害植物
【草花・鉢花】アリウム、オトコエシ、キク、ススキ、チューリップ、ツリフネソウ類、ナギナタコウジュ、ヒヨドリバナ、ヘクソカズラ、ペチュニア、ホウセンカ、ヤブレガサなど。
【観葉・多肉】ササ類、タケ類、ワラビなど。
【樹木・果樹】アオキ、アセビ、アベマキ、イスノキ、イチジク、イヌツゲ、イブキ類、イボタノキ、ウコギ、ウツギ類、ウメ、エゴノキ、エノキ、エビヅル、カシ類、カシワ、ガマズミ、カンキツ類、キイチゴ類、キハダ、クコ、クスノキ、クヌギ、クリ、クルミ、クワ、ゲッケイジュ、ケヤキ、コノテガシワ、サクラ、サワフタギ、シキミ、シデ、シナノキ、シラカバ、シロダモ、ソヨゴ、タブノキ、チャ、ツツジ類、テイカカズラ、トウヒ、トベラ、ナシ、ナラ類、ニッケイ類、ニレ類、ヌルデ、ネズミモチ、ノブドウ、ノリウツギ、ハクウンボク、バラ、ハンノキ、ヒイラギ、ビャクシン類、フジ、ブドウ、ブナ、マサキ、マタタビ、マツ類、マンサク、ミズキ、ムクノキ、モチノキ類、ヤナギ類、ヤブコウジ、リョウブなど。
【ハーブ・野菜】ジャガイモ、トマト、ナス、ネギ類、ヨモギなど。
主な種類
アブラムシ類・ワタムシ類、キジラミ類、コバチ類・コブハバチ類・タマバチ類、タマバエ類・ミバエ類、フシダニ類
余談
虫コブの世界は奥が深く、マニアックな人気があるため、ここに少しだけ書き留めておく。
- 日本では、虫コブ自体に、さまざまな名称が付いている。この命名法には規則があり、原則として、「植物の名前」+「形成された部位」+「形状・特徴」+「フシ」で表される。(「フシ」とは、虫コブの古い呼び名である。)
例えば、「ヤマブドウ」の「葉」に生じる「トックリ型」の虫コブは、「ヤマブドウハトックリフシ」という。また、「エゴノキ」の「葉裏」に生じる「毛の生えた玉型」の虫コブは、「エゴノキハウラケタマフシ」という。 - 虫コブにはタンニンが多く含まれ、漢方薬や染料などの原料となる。例えば、漢方薬として知られる「木天蓼(もくてんりょう)」は、マタタビの果実にマタタビミタマバエが寄生し、虫コブ化したものである。また、ヌルデシロアブラムシの虫コブは、昔から良質なタンニンの原料として使われてきた。
このことから、虫コブを作る虫は、一概に害虫とはいえない面がある。 - イスノキは、さまざまな虫コブができる植物である。この木には、「ヒョウノキ」「ヒョンノキ」という別名があるが、その理由について、葉にできる虫コブにあいた穴(成虫の脱出跡)に息を吹き込めば、笛のような音(「ヒョウ」という音)が出るため、という説がある。
- 秋の味覚の一つである「マコモタケ」は、マコモ(イネ科の多年草)という植物の茎が、タケノコ状に肥大したものである。これの正体は、マコモに寄生した黒穂病菌の一種による、虫コブ(虫えい)ならぬ「菌えい」である。糸状菌の病巣とはいえ不潔なものではなく、食味が良いことから、近年、人気が高まっている。
ただし、マコモタケが古くなると、内部に菌の胞子が形成され、黒くなってくるので、新鮮なうちに食べ切る。