植物の害虫:センチュウ(ネマトーダ)
※ここでは基本的な事だけ記しています。種類ごとの、より詳細な解説・対処方法を見るには、このページの下方にある「主な種類」からどうぞ。
センチュウとは、漢字で「線虫」と書く通り、ミミズに似た細長い体型をした微生物である。別名、「ネマトーダ」とも呼ばれる。体長は1~2mm以下と小さく、肉眼で見るのは苦労する。
センチュウの仲間は、土の中はもちろん、水の中や、動物の体内にも生息する。土中に暮らすセンチュウの仲間は数多いが、その大部分は、他の微生物などを餌にしており、植物を加害することはない。
植物に寄生して害を与えるセンチュウ類を、「植物寄生性センチュウ」と総称する。そして、植物寄生性センチュウには、植物の組織内に侵入し、内側から吸汁するものと、植物に侵入せず、外部から口吻を突き刺して吸汁するものがある。植物寄生性センチュウの代表格の一つであるネコブセンチュウは、前者に該当する。
後者は「外部寄生性」なので、大した害が無いように思えるが、中には、ウイルスや、その他の病原菌を媒介する種類が混じっている。(イシュクセンチュウ、ハリセンチュウ、ユミハリセンチュウなど。)
土壌伝染するウイルス病(ウンシュウ萎縮病など)のいくつかは、それらの外部寄生性センチュウによって伝播されるらしい。
植物寄生性センチュウの多くは、土の中に生息する。が、土の状態が健全であれば、特定の種類のセンチュウだけが勢力を伸ばすことはない。過度の連作などが原因で、周囲の微生物相が崩れ、微生物同士の力関係がいびつになった時に初めて、植物寄生性センチュウが増えやすくなる。
一度発生すると根絶が難しいため、被害の出た土は処分した方がよい。コンテナ栽培なら、土とコンテナを新しくすれば済むが、庭や畑では完全に根絶する方法が無い。
センチュウの被害は、外部からの虫の持ち込みによって人為的に広がるので、予防策が何よりも重要である。
センチュウは肉眼で見えにくいこともあり、植物が被害を受けても気づきにくい傾向がある。ネコブセンチュウのように、被害が分かりやすいものであっても、それがキタネコブセンチュウなのか、サツマイモネコブセンチュウなのかといった、種類の同定までは、なかなかできない。種名を確定させるには、「ベルマン法」と呼ばれる、専用の分離・抽出方法がよく用いられる。(具体的な方法は割愛。)
発生時期
3~11月(冬にもいるが、ほとんど活動しない。)
被害箇所
葉、茎、芽、根、地下茎、球根、塊茎など。
形態など
体長0.7~2mm。ごく小さなミミズ状で、体色は、白色~半透明。
シストセンチュウやネコブセンチュウの雌は丸っこい体形をしている。
クキセンチュウやシストセンチュウ、ハセンチュウの仲間は、悪環境に対する耐性が強く、寄生できる植物が無くても数年は生存できる。
マツノザイセンチュウは、マツノマダラカミキリと共生関係にある。カミキリがセンチュウを運搬する一方、センチュウは、カミキリの餌であるマツ類を侵してヤニを出せなくさせ、食べやすい状態にする。
主な被害
植物内に侵入し、組織を壊死させる。
茎葉や芽を加害されると、被害部分が変色し、やがて萎縮・変形して枯れ込む。ウイルス病に似た、かすり状の模様が現れることもある。
根を加害されると、細根が極端に減り、下葉から枯れ上がって、生育が衰える。また、萎凋病や萎黄病など、土壌に起因する病害を誘発する。
ネコブセンチュウは、名前が示す通り、根に小さなコブを多数形成する。また、シストセンチュウも、根に「シスト」と呼ばれる卵のうを形成するが、ネコブセンチュウのような明確なコブは作らない。
球根や塊茎などを加害された場合は、表面が荒れたり、奇形化するなどし、やがて乾腐状態となる。
松枯れで有名なマツノザイセンチュウは、マツ類の内部全体に広がり、ヤニを出せない状態にする。ヤニの出ないマツは、このセンチュウと共生関係にあるマツノマダラカミキリの格好の餌となり、被害マツは枯死に追いやられる。
どの種類も、健全な生育を阻害し、じわじわ時間をかけて枯死させる。
野菜類が加害されると、収穫量が激減し、皆無になることも珍しくない。
対策
【茎葉や球根・イモを加害する種類】見つけ次第、被害株を除去する。
【薬剤】【散布】オンコル、スミソン、スミチオン、スミナイス、ディプテレックス、マラソンなど。
【注意点】薬剤防除はあまり期待できないが、行う場合は、春先や梅雨時、初秋に、数回連続して散布する。
【根を加害する種類】発生した土に、堆肥・腐葉土・木炭粉末・もみ殻くん炭などをすき込めば、土中の微生物相が改善され、ある程度、数を抑えられる。
また、植物寄生性センチュウは、寄生可能な植物が決まっているため、あえて、センチュウが寄生できない植物を植え付ければ、死滅させられる。(卵などは残る。)
または、発生した土で、エンバク、ギニアグラス、クローバー、クロタラリア、ソルゴー、テンサイ、ハブソウ、ヒマワリ、マリーゴールド(アフリカン、フレンチ、メキシカン、どの系統でも可)、ラッカセイなどを三ヵ月以上栽培し、土にすき込む。
ただし、エンバクやソルゴーは、品種によっては逆に、センチュウを増やすといわれる。また、クローバーなどのマメ科植物は、クローバーシストセンチュウとネグサレセンチュウを増やす。
エンバク「スワン」「とちゆたか」、トウモロコシ、ヒマワリは、キタネコブセンチュウを減らすが、キタネグサレセンチュウを増やす。また、クロタラリアは、キタネグサレセンチュウに効果が無く、アフリカンマリーゴールドは、キタネコブセンチュウに効果が無い。
【薬剤】【土壌混和】ネマトリン、ネマトリンエース、ボルテージなど。
【注意点】土壌混和に用いる薬剤は、いずれも接触毒なので、自ら動かない卵には効果が無い。
予防策
抵抗性品種を栽培する。連作を避ける。多肥を避ける。土に有機物を補給する。未熟な有機物を使わない。茎葉に水をかけない。できれば雨に当てない。カリ(K)肥料や微量要素が不足しないようにする。
被害株から子株を採らない。挿し木や挿し芽は、清潔な土で行う。土壌酸度がアルカリ性に偏らないようにする。鉢やプランターを地面に直接置かない。
保存のために球根を掘り上げたら、手早く乾燥させる。出所の怪しい球根を植え付けない。
一度発生した土は、徹底的に消毒するまで再利用しない。植物を購入する際は、すでに虫がいないか、よく観察する。種類によっては枯れ葉の中で越冬するため、きちんと掃除する。
マツノザイセンチュウの場合は、5~7月頃に飛来するマツノマダラカミキリの成虫を駆除する。近くに枯死したマツ類があれば、必ず切り倒して処分する。
主な被害植物
【草花・鉢花】アイリス類、アカンサス、アサガオ、アスター、アネモネ、カラマツソウ、カルセオラリア、カーネーション、ガーベラ、キキョウ、キク、キンセンカ、グラジオラス、クラスペディア、クレマチス、クローバー、クロッカス、ケイトウ、サフラン、サンゴバナ、シクラメン、ジニア、シャクヤク、ジュズダマ、スイセン、スズラン、スターチス、スミレ類、ゼニアオイ、セントポーリア、センノウ類、ダリア、チグリジア、チューリップ、デージー、デルフィニウム、トケイソウ、バーベナ、ヒアシンス、ヒマワリ、フジバカマ、ブバルディア、フロックス、ベゴニア類、ホウセンカ、ホタルブクロ、マーガレット、ミカエリソウ、ユキワリソウ、ユリ類、ランタナ、リアトリス、ルドベキアなど。
【観葉・多肉】サクララン、サボテン類、シダ類など。
【樹木・果樹】イチジク、カイドウ類、キウイ、クリ、クルミ、クワ、コムラサキ、サザンカ、センリョウ、チャ、ツバキ類、ナシ、ハギ、ハクチョウゲ、バラ、ヒメウツギ、ブドウ、ボタン、マツ類、モモ、ヤブコウジ、ヤマブキ、リンゴなど。
【ハーブ・野菜】アズキ、アブラナ、アワ、イチゴ、イネ、インゲン、ウリ類、エンドウ、陸稲、オクラ、カブ、カボチャ、カリフラワー、キャベツ、キュウリ、コショウ、ゴボウ、コンニャク、サツマイモ、サトイモ、シソ、ジャガイモ、ショウガ、スイカ、ゼンマイ、ダイコン、ダイズ、タマネギ、ツルナ、テンサイ、トウガラシ、トウモロコシ、トマト、ナガイモ、ナス、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ類、ハクサイ、ビーツ、ピーマン、フキ、ホウレンソウ、マーシュマロウ、マクワウリ、マメ類、ミョウガ、ムギ類、メロン、ヤマイモ、ヨモギ、ラッカセイ、ラッキョウ、ラベンダー、レタス類、ワサビなど。