植物の害虫:テッポウムシ
※ここでは基本的な事だけ記しています。種類ごとの、より詳細な解説・対処方法を見るには、このページの下方にある「主な種類」からどうぞ。
「テッポウムシ」という名称は、本来、カミキリムシの幼虫のことだけを指す。しかし、ここでは、カミキリムシと似た加害をする他の昆虫類(ゾウムシやキクイムシなどの甲虫類と、ガの幼虫)も、一緒に扱っている。
この仲間は、樹木の幹や枝の内部に入り込み、樹皮下の形成層や木質部を食害するため、被害植物へのダメージが非常に大きい。なお、テッポウムシが植物の内部に食い入ることを「食入」といい、その際にできた小さな穴を「食入孔」という。)
被害を受けた部分は折れやすくなり、やがて衰弱・枯死する。老木や弱った木ほど被害にあいやすい傾向がある。
植物の内部、奥深くに潜む虫だけに、防除は難しい方である。針金などで刺し殺す、あるいは、被害部分を切り開いて捕殺するのが基本だが、薬剤を使う場合は、虫が入った孔(食入孔)から流し込むか、綿などに染み込ませて詰め込み、薬剤を気化させて死に至らしめる。
発生時期
周年(成虫飛来期は3~11月。)
被害箇所
幹、枝、樹皮、新梢、茎、芽、葉、葉柄、果実、根、地下のイモなど。
形態
【カミキリムシ、キクイムシ、ゾウムシ、タマムシなどの甲虫類の形態】成虫は、体長0.1~6cm。カミキリムシやゾウムシは大きく、キクイムシやタマムシ類は小さい。体色は、黒色や褐色などで、種類によってさまざまだが、比較的、地味であることが多い。
多くの種類は1~2年に一度の発生。ただ、カミキリムシには3~4年に一度の種類があり、キクイムシには年3~4回発生する種類がある。
幼虫は、体長0.2~10cm程度で、成虫より大きい傾向がある。こちらもカミキリムシやゾウムシは大きく、キクイムシやタマムシ類は小さい。体色は乳白色~黄緑色など。全体的に丸っこいイモムシ状で、脚は無いのが普通。
【ガの仲間の形態】老熟幼虫で体長0.3~5cm程度だが、コウモリガのみ大きく、8cmに達することがある。体色は、乳白色~淡黄色・淡褐色・赤褐色など。年1~4回の発生。ただし、コウモリガやボクトウガは、地域によっては、2年に一度の発生となるる。
主な被害
【カミキリムシ、キクイムシ、ゾウムシ、タマムシなどの甲虫類の被害】まず成虫が、新梢・枝・幹・樹皮・葉などを食害する。雌成虫は孔をあけるなどして産卵し、幼虫食入のきっかけを作る。
被害部分は衰弱し、枯れ込みやすい。また、地際近くが被害にあうと、木全体が枯れることがある。
幼虫は、枝や幹に食入し、形成層や木質部をトンネル状に食害する。食入孔は、地面から比較的低い位置にあることが多い。また、食入孔、あるいは幼虫がいる部分付近から、木くずや糞、ヤニが出てくる。
被害部分は折れやすくなり、木を弱らせる。他の病虫害の発生を誘発する。
【ガの仲間の被害】樹皮の裂け目などから樹皮下に侵入し、形成層や木質部を食害する。食入孔からは、オガクズ状の糞や、ヤニが出る。ボクトウガのように、時折、木の外に出て移動する種類もある。
被害部分は折れやすくなり、さらに、胴枯病や樹脂病、輪紋病などを誘発する。
対策
【成虫の対策(甲虫類、ガの仲間共通)】見つけ次第捕殺する。カミキリムシの場合、木を揺すると落ちてくる種類があり、集めやすい。
キクイムシの場合は、被害樹を切り倒し、焼却するなどして、内部の虫ごと処分する。(伐採しても、放置すると次回の発生源となる。)
【薬剤】【散布】Mr.ジョーカー、アークリン、アーデント、アクタラ、アクテリック、アタブロン、アディオン、アドマイヤー1、アプロード、アルバリン、アントム、園芸用キンチョールE、エンセダン、エンバーMC、オルチオン、オルトラン、オルトランA、オルトランC、オルトランMP、オンコル、ガーデンアースB、ガードベイトA、カウンター、カスケード、カダンAP、カダンD、カルホス、グランドオンコル、サイアノックス、サニーフィールド、ジェイエース、ジェネレート、ショットイン、スケルサイドA、スターガード、スタークル、スミソン、スミチオン、スミナイス、スミフェート、ダイアジノンSL、ダントツ、ディプテレックス、テルスター、トクチオン、トレボン、ノーモルト、パイベニカ、パーマチオン、ピレオール、ベジタメートAL、ベストガード、ベニカ、ベニカD、ベニカX、マッチ、マラソン、マルチガード、モスピラン、リーズンなど。
カミキリムシの場合、バイオリサ・カミキリなどを幹に装着してもよい。
【注意点】成虫飛来期に、定期的に散布すれば、孵化幼虫の食入を防げる。
【幼虫の対策(甲虫類、ガの仲間共通)】食入孔から針金を突っ込んで、中の虫を刺し殺す。食入部分が細い枝なら、見つけ次第、切除する。(落葉樹の場合は、冬を待ってから切除したほうが無難。)
あるいは、被害部分の樹皮をはいで探し、中の虫を捕殺する。(その後、木の傷跡に、カルスメイト、ケアヘルス、トップジンMペーストなどを塗布。)
【薬剤】【食入孔に処理】アクタラ、アルバリン、園芸用キンチョールE、カルホス、スミチオン、ダントツ、テッポーダン、トクチオン、ベニカ、ベニカマツケア、マツグリーン、マラソン、モスピラン、リーズンなど。
【散布・塗布】ガットキラー、ガットサイドS、サッチューコートS、スミパイン、トラサイドAなど。
【注意点】食入孔や産卵孔に入れる薬剤は、直接噴射する他、綿に染み込ませて詰め、その上からフタをして気化させても効果がある。
キクイムシやタマムシ類は体が小さく、食入孔がわかりにくいので、幹に浸透する薬剤を散布・塗布したほうがよい。
予防策
株を弱らせない。抵抗性品種を栽培する。周囲の雑草を除去する。過剰な施肥を控える。無用な電照を避ける。種類によっては荒れた樹皮に産卵するので、冬季に粗皮を削り落としておく。
幹や枝に石灰乳を塗布すれば、産卵・食入を防ぐ効果がある。
成虫は銀色に光るものを忌避するので、銀色ポリフィルムなどでマルチングする。種類によっては、被害株の地際部分や落ち葉の中、周囲の草むらなどで越冬するので、冬に掃除する。
近くに枯死した被害樹があれば、切り倒して処分する。剪定した枝などを放置せず、きちんと処分する。(幼虫は伐採された木の中でも成長する。)
被害樹の撤去が難しい場合は、幹をできるだけ細かく切断し、表面に殺虫剤をたっぷり散布すれば、羽化・脱出しようとする成虫に効果がある。
主な被害植物
【草花・鉢花】アキレア、アザミ、アスター、アマドコロ、イソギク、イタドリ、カラスウリ、キク、シャスターデージー、ダリア、ツワブキ、ナルコユリ、ノコギリソウ、ハルジオン、フジバカマ、マーガレット、ミヤコワスレ、ヤグルマギク、ユリなど。
【樹木・果樹】アオギリ、アカシア、アジサイ、アンズ、イチゴノキ、イチジク、イボタノキ、ウメ、エゴノキ、エビヅル、オウトウ、オリーブ、カイドウ、カエデ類、カシ類、カシワ、カナメモチ、カマツカ、カリン、カンキツ類、キイチゴ類、キウイ、キリ、キングサリ、クスノキ、クヌギ、クリ、クルミ、クワ、ケヤキ、コウゾ、サクラ、ザクロ、サザンカ、サツキ、サルスベリ、サルナシ、サワラ、シイ類、シキミ、シナノキ、シャクナゲ、シラカバ、スギ類、スモモ、センノキ、タブノキ、チェリモヤ、チャ、ツツジ類、ツバキ類、トキワマンサク、トチノキ、ドロノキ、ナシ、ナツツバキ、ナラ類、ニセアカシア、ニレ類、ネクタリン、ネズミモチ、ハナミズキ、バラ、ハンノキ、ヒノキ、ヒバ類、ヒマラヤシーダ、ビワ、フェイジョア、フジ、ブッドレア、ブドウ、ブナ、プラタナス、ブルーベリー、プルーン、ヘーゼルナッツ、ボケ、ボタン、ポプラ、マツ類、マルメロ、ムクゲ、モクレン、モミ、モモ、ヤシャブシ、ヤツデ、ヤナギ類、ヤブニッケイ、ユキヤナギ、ライラック、リンゴなど。
【ハーブ・野菜】アカザ、イチゴ、ウド、サトイモ、ジャガイモ、タラノキ、タンジー、トウモロコシ、ナス、ヨモギなど。